森と君と+呪いたち
□2:歌声が映すもの
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――フレネザは夢を見ていた。起きねばならない気がしているが、頭はびりびりと痺れて、それを拒絶している。まぶたは重く閉ざされて、体には、一切の力が入らなかった。
走馬灯のように、次々に切り替わり、消えてゆく夢を、彼女は、ただ見続けるしかなかった。
最初に、寝床だけが与えられた、白い、箱のような部屋の景色を見た。いつも見ていた場所だ。
(……そうだ、自分は、毎日、そこで、退屈に暮らしていた。あの日まで)
続いて、思い出すのは、つい、数年前のことだった。ある春に、そんな退屈な場所に、唐突にやってきた、彼のこと。
(そうそう。彼は、本当にやんちゃで。いつも、いろんな人が彼を追いかけてて……いつからか、おとなしくなって……)
そうだ。あの日も、確か、そうではなかったか。
『ごめん! ちょっと、かくまってくれないか』
『……いや、きみ。外から、採血しなさいって、聞こえるんだけど……』
『いいからいいからっ!』
(あれ……顔が。思い出せない)
「すまないね。君の記憶に、埋もれさせるわけには、いかないんだ」
唐突に、誰かの声が入ってきた。
回想の世界を、その声がじわじわと奪っていく。
だんだん、わからなくなってゆく。
誰。誰なの。
やだ、やめて。私は。
私、は……忘れたくない。忘れたくない。
私は、まだ、彼に伝えなくてはならない。
彼に――――
「悪く思わないでくれ。儀式の歌を思い出す、代償なんだ」
ぎしきの、うた。
ぎしき……?
意味を考える前に、眠気がやってきた。これでもう、思い出すことはないのだと思うと、いろいろなことが、ひたすら、恋しいと思った。