森と君と+呪いたち
□3:大地を見下ろす鳥
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始まりも、ひとつの終わりだというけど。
2
――少し肌寒いものの、花が咲くようになってきたころのことだった。
外観は味気ない塗り壁だが中はそれなりに洒落たつくりの、病院、と端的に呼ばれる場所。
ある日、彼は、そこに母に連れられて、やってきた。
ちなみに本当は、この場所は、正式には病院とは言えず、さらには偉い方のこだわりで付いたらしい、もっと長い名前があるようだが、町の人たちは、気にしていない。
「《なんとか》を記念した、《なんとか》さんの………?」
壁の看板に、年月で薄れた字で書かれた文字を呼んでみた。
しかし、筆記体だという上に、覚えていない字も多く、その頃のセイにはほとんど読めなかった。
初めて来た場所なのに、なんだか、あまり楽しげではない。母がにこにこしながら手を引いてくれている辺りにも、幼心に違和感を覚えていた。
「じゃあ、行こうか」
二人目の母のナリエは、ぽつりと言った。
――――5歳ほどの頃の話だ。
ある日、なぜか、ここに来るように、と呼び出しの手紙が来た。
せまいポストに、分厚い封筒が、分かりやすく挟んであったのだった。
朝に郵便受けを確認するのは、セイの役目だ。
それは、母宛のようだったので、中身を見ず、そのまま渡したため、件名くらいしか、セイにはわからないままだが、しかし、封筒には、間違いなく村長の判が押されていた。
セイには、母が二人いる。だが、一人目の母は、もういない。
理由はわからない。
ただ突然、いなくなった。どちらも大好きな人だった。