森と君と+呪いたち

□3:大地を見下ろす鳥
4ページ/4ページ



日が暮れた。
一番星はとっくに輝いた。今日はやけに、空が澄んでいる。
建物内のステンドグラスを照らすものは、月へと変わった。
横たわってぴくりともしない少年と、倒れた台上の少女の頬が、淡く照らされている。

暗闇に潜むようにたたずむ一人の幼い少年だけは、唯一、意識を持って、少女を見つめていた。

「……途中、までしかない」

なるほど、と彼は納得した。
絶望するほどではない。考えられたことなのだから。
彼女の記憶から引き出そうとした歌は、途中で途切れていたのだ。
続きを持つものがあと一人か二人はいるということになるのだろう。

歌詞は、暗号だった。気付かれぬように、一部の者に口伝で伝わってきていた。それは、とても貴重なものだ。

「た……し、は、わ、すれ、な……」

意識が無いと思っていた、目の前の者が、少し動いた。
掠れて、どこか、ぞくりと寒気がするような声が、彼を呼んだ。
目が、ひきつけられてしまう。動くのが怖い。
おぞましい響きだ。
それはもう、声というより、壊れた何かの叫びの音だった。
目が合う。
先ほどまで、眠り続けていた彼女の目が、こちらを睨み付けていた。

「私は、忘れない」

忘れない。絶対に。
次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ