森と君と+呪いたち
□4:太陽を、願う
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揺らぐ光の中に、呼び声が聞こえる。
3
――逃げるように走る彼女の、背中までの青混じりの黒髪は、いつもみたいに、ふわふわ揺れていた。
たしか、その背中を追いかけていたんだと思う。
彼女の髪は、ぼくと同じような、毛先の青色の部分を、なぜだか無理に染めているから、ちょっと紺みたいな色合いが混じっている。
『どうせ染まりきらないから、そのままでも同じだろ?』
といじわるを言ってみたことがあったんだけど、その日に限って、彼女は珍しく、そうだね。って言って、苦く笑ったんだ。
いつもはもっと、意地っ張りだった気がするのに。
へんなの。と、ぼくはムッとした。
本当は、一方的で、わがままな気持ちだってわかっているけれど、ちょっとだけ、寂しかったんだよ。
……おそろいを、拒絶されたみたいでさ。
彼女は一人だけ変わっていって、一人だけ、抱えていって、あの場所に消えた。
いや――彼女も――――かもしれない。
薄々気付いていた。
あれの生け贄になることを選んだ彼女の目は、日々、怯えるものに変わっていく。
自分には、何も出来ない。自分は、関係ない。
だけど、そんなの、嫌だ。
だから、あの日、追いかけたのだ。
もし、少しでも、自分に届くところにいるのなら、ひきとめたかった。
戻ってきて欲しかった。
だけど、かなわなかった。
あなた、寝ていたんじゃなかったの、こないで、やめてよ。
砕けた口調から始まり、最後は丁寧な懇願だった。
『お願いします、ここから、立ち去ってください。
あなたはまだ間に合う』
でもね、私は、私はもう。
『手遅れ。ゆるされないの』
……お、ねえ、ちゃん。
待って、いかないで。
おねえちゃん。おねえちゃん。おねえちゃん。おねえちゃん。おねえちゃん。
どこにいくの、フォルおねえちゃん……
「いつまで寝ているのです」
凛とした声が覚醒を促した。
脳内で構成されていた、過去の景色が乱れて、ただの闇に塗りつぶされてしまった。気が付く。夢だ。
これは夢で、ぼくは、気を失っていた。
そうだ、起きなくては。
突然、体が軽くなった気がした。あんなに重かった瞼を今はいとも簡単に開くことが出来た。
「……ん」
「まったく……ぼろ雑巾かと思いましたよ」
目の前に、背中までの黒髪を揺らす少女がいる。
偉そうに言いながら、こちらを呆れたように見下ろしていた。