森と君と+呪いたち

□7:私の終わりはあなた
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すぐ変わろうとするところが、ちっとも変わってない。

     7


 路地には誰もいない。
セイは、一応辺りを見渡したが、二人以外に、なにかがいることはなく、至るところに貼られたポスター、煉瓦の壁、小さな催しに使う舞台、町並みを損なわないように、薄い色や、煉瓦や木の色で統一された壁の家々があるくらいだった。
 住宅地なので、店はぽつぽつある程度だが、裏通りからは店街に出られる。


「──大切なのは、すべて、そのものでしかありません。命は、記憶そのもの。言葉は、世界そのもの。夢は、願いそのもの。記憶は、あなたそのもの。命は、すべてのもの。脱け殻は、大切なそのものを、失った存在と言えるでしょう。──生きていて、とっくに、死んでいる。……ところで、あなたは、私の正体、そろそろ気が付きましたか?」


 ぼんやりしていたセイは、少女らしき声に、ふと我を取り戻した。何を言われたのか、すっかり聞いていなかった。

聞いていても、理解出来そうな言葉だったとは思えなかった気さえする。


「あ、ごめんなさい……」

「……私は──あなたのために存在します」


「はい?」

話が、急に飛んだような気がする。いくらなんでも、先ほどまで、そんな話をしていた覚えはない。
ますます混乱したセイは目をぱちくり動かすしかできなかった。

「聞いていなかったのですか?」


頭上に手が伸びてきて、セイの帽子を奪う。
窮屈で、熱を持っていた耳が、解放され、自由に揺れた。根元が痛いし、痒い。

「ああ……やっぱり。あなたは、あなたを止めることが、もう、出来ないようですね。──終わりが、動き出しています」

なにが、やっぱりなのか。聞けば良かったのかもしれない。しかし、セイはそれより確かめたいことがあった。


「あ、あの! あなたは……もしかしたら────」

ふと、閃きが瞬時に言葉として先走って、彼女の声を遮る。

それから先の言葉は、彼自身にも、わからなかった。ふと、我に返ると、自らが、さきほど何を言いかけていたのか、わからない。
咄嗟には言葉にならない、何かの存在を、心の底では確信していたのだろうか。
黙りこんでしまったセイに、フォルグは何も言わなかった。笑いもせず、ただ、小さく目を細めて、言った。

「生きなさい。あなたは、そのまま進むしか出来ません。時間を止めることは──私にも、許されない」

帽子が放られる。
そちらを掴むのに気をとられているうちに、少女の姿は跡形もなくなっていた。
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