森と君と+呪いたち
□8:痛みに慣れ、温もりも痛む
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大切だからこそ、壊されるくらいなら──
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セイは思わず、外に飛び出していた。
衣装は、適当に放ってきた。上からかぶるようなものだったので、下はちゃんと服を着ている。母の『どこに行くの』が後ろで聞こえていたが、状況がわからない、その優しい声に、セイはなんだか腹が立って仕方なかった。
生きるだけで、周りを苦しめてきたのだと、気付くのが遅かったような気分になった。それはもちろん、自分自身のこともだ。
いつから、こんなに気が短くなったのだろう、と考える。
そして、きっとこれまでが、おっとりしすぎていたのだとすぐに思い直した。
そんな風に、がむしゃらに外に出てきて、人が多い通りに来たときだった。
そこで、どうも、様子がおかしいことを感じる。
まさかと、頭上に手をやり青ざめる。すっかり、帽子を忘れていた。そして多くの者が、自分に注目しているではないか。
そう、今日は祭りであって、たくさんの人が、町を行き来していたのだ。頭のなかがいっぱいで、周りのうるささなど耳に入っていなかったことを、急に自覚する。
「おい、あれ……」
大柄の男が、こちらを指さす。少しまっすぐ進まないと、分かれ道はなかったため、セイには引き返すか、注目を浴びて進むしか選択肢がなかった。
太った女が何か言った。
若い女が、きゃあきゃあ言い、ひょろ長いおじいさんが、こちらを睨んだ。
「……忌々しい。そんな飾りを、付けるでない」
大柄の男だけは、作り物ではないと早くも気付いたようで、頭をじろじろ見ながら近づいてくる。
「じいさん、おかしいぜ、こいつ」
小さな歩幅では、すぐに追いつかれる。どちらに行ったものかと戸惑っていたセイに、大股で男が寄ってきた。
(いやだ……やめてくれ、見ないでくれ)