森と君と+呪いたち
□9:寄り添うように、舞い降りる。
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あなたは、わかってない。わたしには、わからない。
□
土に、少年の血が滴り落ちたときだ。僅かに土が隆起するのを、男たちは感じた。
「お……おい、なんだ?」
急に角度が僅かにずれて、バランスを崩した眼鏡の男が尻餅をつく。
違和感。今まで平坦だった道が、まるで、意思を持ったかのように思える。嫌な予感がする。
「……まさか。本当に、森が生きている?」
帽子の男がやや焦ったように言った。二人の手から落とされた小さな体は、じんわりと赤い血を土に滴らせ始めていた。
少年からはほとんど呼吸が感じられない。
一方で、まるで意思があるかのように、森は動いた。どこかから木の枝が伸び、眼鏡の男の足をつかむように巻き付いた。
「うわああ!」
帽子の男は怯えて後ずさるが、その背後にもいつの間にか伸びた枝が向かっていた。二人とも、逃げ場がない。
「……ひぃっ、なんだ、これは」
「わからん、だが、獣種と、森の関わりについての文献が、以前──」
眼鏡の男の問いに、帽子の男が答えようとするが、それは叶わない。
小さな子どものような、無邪気な声が、枝と共に、彼らにどんどん張りついて、それどころではなくなったのだ。
──あなたが新しいいけにえ?
──あなたたちが、いけにえ?
──久しぶりのいけにえだ!
──我らの復活を、祝しましょう。
──ご馳走だ。ご馳走だ。
「苦、し……」
「ぐっ……」
互いの声さえもはやわからなくなり、混乱状態のまま、二人は静かになる。喉に巻かれた枝のせいで、うまく息が出来なくなったのだ。
視界と意識が閉ざされる直前、彼らは知った。伸びてきているその枝の先にある本体のひとつは、少年の《左足》だったのを。
どこか遠くでは、少女の笑い声がする。楽しそうに、寂しそうに、嬉しそうに、歌うように。