森と君と+呪いたち

□1.呪いたち
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[prologue](1/1)
獣の森の呪いたち


プロローグ

 シュタタタ、タン、と軽やかなリズムが地面を蹴って、何者かが舞い上がる。高木の枝の上に着地して、彼は、息をついた。

「ふー、これで、プラムをひとりじ……」

め、と言おうとした瞬間だ。ポケットに入れて隠し持っていた果物が無いことに気付く。
落としたか。いや、まさか。焦った彼に、下から声がかかる。

「……ひとりじめはだーめ」

 そう彼に声をかけたのは小さな、魔法使いの少女だった。彼女の手に持つ杖が、プラムを彼女のいる木の下の方に引き寄せ、浮かせている。


背までの長い髪を、密あみにして、垂らしており、その色はミントのような淡い緑。ぱっちりした目は、目付きが悪いのか、寝不足なのか、中途半端に閉じぎみだ。

「お前、喰われたいのか!」

牙をギラつかせ、彼──右半分が青い髪、左半分が黒い髪の少年が、木の根元に降りようとする。頭には柔らかそうな獣の耳があり、それを気にしているようで、隠すように伸ばした髪は、少女までとはいかなくも、まあまあの長さがあった。いつもはひとつに結んでいる。

「レディになんてこと聞くのよばか!」

「なにがレディじゃ、ぼけ!」


 口汚い喧嘩が始まっている間に、プラムを二人からそっと奪い、うふふ、と微笑んだのは、果実のようにみずみずしい橙色の髪の少女。ふわふわとカールした髪には、緑色のヘアバンドを付けており、本当に果実みたいだ。
ちなみに、このヘアバンドは、ときどきターバンや、他の緑色になる。彼女には、緑色を頭に乗せたいという、妙な癖があるのだ。

「ランも、レンズもよくやるわ……これ、私がもらおうかな」

ランと言われた少年が、口をあんぐり開けたまま固まり、レンズと呼ばれた少女がその水晶のような瞳を潤ませ、橙髪の少女に泣きつく。

「うわーん、ヌーナちゃん! レーさまはちゃんと心を入れ替えるよ?」


「レンズさん、その鬱陶しい一人称、なんとかならない?」

「え、レーさまは、レーさま……つまりレディなのだし……」

「はいはい」

会話を諦めたヌーナは、彼女たちに、半分ずつ、爪をめり込ませたプラムを放り投げた。あんなに求めた果実だったはずなのに、二人は、ひっ、と悲鳴を上げて避ける。

 果実は、緑色の危ない液体を滴らせ、どろどろと液体化して地面に染みていく。彼女は、爪で触れたものを毒にしてしまう体質なのだった。


──こんな三人は、実は共に旅をしている。
目的地は、同じ『大陸』だ。
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