◆なとなと 番外編◆
□甘い災厄
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「だって、夏々都が」
「ぼくが、なに」
「思春期な夏々都が」
「思春期なぼくがなんなんだよ……」
「もしかして、一度で、随分と思い出しちゃう?」
「なっ──なんの、話だ」
「だって、様子が変だよ。まつりに今さらドキドキするのって、おかしくない?」
「いやドキドキはしてないけど……」
「じゃあ、なにー」
「……お前なぁ、そんなことについて考えてたのかよ」
「何か思い悩んでるなら聞きたいなー、くだらねーことで悩んでバカげてるって嘲笑うくらいなら、してあげるよ?」
「わー最悪だ……そりゃどうも。別に何も悩んでないから」
夏々都は言いながら、机の上のノートを数学から国語に切り替える。
試験対策用の参考書は、分厚い。あれだと、まつりなら絶対半分くらい使わない内容がありそうな気がした。
「……ふむ。やっぱり、夏々都はえっちぃことに興味が出てきたのだ」
「なっ……違……う、気が、する!」
気がする?
曖昧な言い方をしながら、夏々都はわざとらしく参考書をパラパラめくる。
あれは絶対頭に入っていないだろう。
ベッドでごろごろしていたまつりは起き上がり、夏々都に冷ややかな目を向けた。ちなみに軽蔑のためではなく面白がっての演技の視線である。
「ふうん? 夏々都は最近あんまり抱っこしてくれないし、無理やりちゅーしたらその日夜は絶対一緒に寝てくれないし……」
演技だったが、だんだん実感してくると、ちょっと切ない気分だった。
まつりの身体は、たぶん何かを忘れていて、その容量を埋めるかのように、夏々都についての沢山の記憶を欲しがっているので、それを向こうから拒絶されると、ちょっと悲しい。
昔から涙腺が緩いのが悩みなのだが、だんだん目が潤んでくる。
ああもう、泣きたいわけじゃないのに。