◆なとなと 番外編◆
□ぼくちの
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一通り片付けが終わると続いて、まつりは「見てほしいものがある」と、庭の数メートルくらいは奥にある、古い小屋に入る。
そいつの実家だという豪邸──お屋敷がすぐそばにそびえているのだが、なぜかそいつは普段から庭にいて、庭にあるその小屋からもたまに出てくるのだ。ぼくは深くは聞かない。
とにかくその小屋から、小さな段ボールを引っ張ってくると、きらきら輝く瞳で、ぼくに得意気に中身を見せた。
「なとなと、見て。昨日作った!」
「なに、これ」
「空飛ぶの。なとなとが」
サルのぬいぐるみの頭にファンがつけられ、モーターがつけられ、よくわからないスイッチがつけられているものを、まつりは取り出した。
箱には、延長コードや、乾電池、それから……コントローラーがまだ入ったままだ。
ちょっとはみ出した接着剤や、サルの顔が微妙だったり、手作り感があったが、その分だけ、目の前のそいつが作ったんだなと実感させるには充分な、子どもらしい奇抜さのセンスを感じる。
「……ぼくなんだ、これ」
「えへへ。うん。とりさんを研究してたらね、なんか堪らなくなってね。試作機に飛んでもらうことにしたの」
「なんでサルなの」
「サルじゃないよ、なとなと1号だよー。やっぱり本人が複雑骨折したら大変だしね。これで、飛んでもらえるの」
「そうですか……」
会話が望めないなと諦めて、コントローラを組み立てるのを眺めていたら「複雑複雑骨折〜、バ〜キバキと〜」と、物騒な曲を歌い出した。ご機嫌だ。やめろ。なんか不安になる。
睨んでいたら、視線に気付いたのか、なとなと、とぼくを呼んだ。ちなみにぼくの名前はななとだが、未だにまともに呼ばれない。
「骨粗しょう症って言える?」
「え? きょつしょしょ……」
「わー、あー。ちょっと重さのバランスが。飛ばして見ると、ちょっと計算が……うーん」
「自分で振ったんだから聞いてよ!」
「なとなと1号」は、斜めにぐらぐらしながら、それでもなんとか飛んでおり、まつりは既にそちらに興味が移っていた。
「細〜か〜く砕ける〜♪ 白さは驚き〜」
その歌はなんなんだよ。
とは思うが、歌いながら、コントローラをがちゃがちゃ動かす姿はなかなか楽しそうだから、しばらく眺めていた。
なんだか、ファンタジーみたいな、わくわくした気分になる。
「でもでも、飛んだよ!」
「そうだな……あ」
だが。
「あー……」
しばらく3メートルくらい上空を飛んでいた「なとなと1号」だったが、頭から脳みそというか、配線みたいなのや綿? を盛大に撒き散らし、目の前で落下した。
プロペラだけはまだ上空を漂っている。
ぼくが──無残だった。
複雑骨折の方がまだマシかもしれないと思うくらいの即死だ。
「回転に耐えて禿げないようにしてたのに……布から引きちぎられたあ! やっぱり素材をケチるとだめだね……」
素材をケチったらしい。試作機だからだろうか。
「ああ、そうなんだな」
「なとなとじゃなくて試作機で良かった〜」
「本当にそうだな」
ぼくで試されたら、さらに大変なことになるだろう。恐ろしい。というか悪趣味な想像をしないでほしい。
「なとなとが《あれ》だったら、プロペラに嫉妬してた」
「……お前の感性がわからねえ」
「やっぱり、こんなんじゃ本人に付けるのは早いね。がんばろー。明日には改良して、と」
「成功しても、絶対ぼくには付けるなよ!」