森と君と+呪いたち
□1:迷った木々のなか
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「あら。帰ったのー?」
目を閉じていると、母の声がして、すぐに、ばたばたと足音。続けて勢いよく、頭上に見える戸が開いた。
「まぁ、そんなところに寝転んで。ほこりで汚いから、起きて」
「あぁ。うん」
言いながら起き上がると、ドゥロロものろのろと起きた。
母は肩までの髪を、後ろで結び、珍しく、普段はつけないピンクのエプロンをつけていた。
奥の方から、揚げ物のいいにおいがする。
「えー。魚、また増えたの」
ドゥロロが置いていたバケツにいる魚を見て、母は苦笑した。
「セイを見つける間、途中の川があまりに綺麗だったから」
ドゥロロは、仕方ないじゃないかという風に言った。
「……なぁ、お前網とか何も持ってなかったけど、素手か? 素手で捕まえたのか」
へへっ、とドゥロロが笑う。これが返答らしい。いい笑顔だった。
「とりあえず、二人は手を洗ってきなさい」
「はいはい」
「はいはね、4回だよー。セイ」
「増えてる」
母さんが言う。
「一回だ」
セイも言った。母とほぼ同時で、少し気恥ずかしいと思ってしまった。
つまんないなぁ、とぼやきながら、にこにこと、セイと母さんを見ていたドゥロロが、すっと立ち上がる。母さんは、戸を開けたまま台所の方に戻っていった。
ふたりはその戸から、台所と反対にある、洗面所のある廊下の方へと進む。
その際、セイは目の前を歩く、廊下を走ろうとする少年の肩を掴んだ。
「なにするんだよー」
肩を掴まれて、むっとしながら口を尖らせているドゥロロは、見た目よりも、さらに幼く見える。
「廊下を走るからだろ。転ぶと危ないから、やめてくれ」
別に不機嫌なわけではなかったが、少し目を細めて、不機嫌そうに注意すると、ドゥロロはそれに明るく返事をする。返事だけはいつもいいよな、などと思ったが、言わなかった。
ドゥロロが洗い終わると、セイも横から素早く手を洗う。
すぐに、母の何か呼ぶような声が聞こえてきた。
二人で意味もなくはしゃぎながら、揚げ物のいい香りがする台所へと急いだ。