森と君と+呪いたち

□2:歌声が映すもの
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――青い空が、その日も、いかに暑いかを示していた。
川はいつものように、ゆったりと流れている。
中途半端に、柔らかな風が吹いていて、やや陽は高い。夏のことだった。


「……なあ、やめようよ」
その年、セイは9歳だった。
短いズボンをはいて、夏用のグレーのシャツを着ている。腕には、お守りにしている紐を巻き付けていた。
靴の紐が切れたり、髪を結びたくなったり、外で何か、袋のものを持ち帰るときに、役にたつのだ。


「大丈夫だって! 勇気を出して!」

ドゥロロは、そう言って、セイの後ろに立っていた。
二人がいるのは、高い崖の上。目の前には川。
ここから川に飛び込むことができれば、勇気があると認められる。

地域の子どもの中で流行っていることだった。
しかし、実際にやる人などそういない。
大人はわからないが、小さな体には、それほどおっかない場所なのだ。

第一、この地域の夏は暑い。めったに子どもは外に出たがらないのが現状だった。

だからこそ、ドゥロロに、川に誘われたとき、セイは嫌がっていた。
なのに、押しに弱く、ついにこうなってしまったのだ。

「やだよ……」

「もしものときは、助けるって、な?」

キラキラした瞳でそう言われて、うっ、と小さく呻いたセイは、とうとう決心した。
少し後ろに下がり、軽く助走を付ける。

「よし……」

彼が足を踏み出したときだった。

「あ、うわ、ごめん!」

ドゥロロが声を張り上げる。
同時に脇のあたりに強い衝撃が来た。
なにかぶつかってきたらしい。
いや、さっきのは、彼の謝罪の言葉であった気がするし、彼がぶつかったのだろうか。
しかし確認する暇がない。
飛び込もうと目安にしていた地点から、視線がずれてしまった。

斜めになって、岩のある方に顔を向けたセイは、そのままバランスを崩した。

「や、やだ……!」

「セイくん!」

咄嗟に伸ばされる腕。
しかし届かない。
セイは目を閉じた。
その直前に見た、幼なじみの泣きそうな顔だけが、焼き付いていた。
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