森と君と+呪いたち

□3:大地を見下ろす鳥
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施設に着いてからは、通された部屋に担当がやってきて、何やら封筒のことについて話し、それにナリエが承諾して、セイは、すぐに、入院することになった。
その辺りはあやふやで、あまり覚えていない。
ただ、先生に聞かれたのは「××××に入ったのかね?」 という言葉くらいだと思っている。

それがどこを指していたのかは、よくわからない。話が難しくて、ほとんど覚えていなかった。


『あーあ、せっかく、あさは、気分が良かったのに、とじこめられるのは、ひどく気分がわるいよ。ここからだしてよ、ぼくは、どーぶつえんのどーぶつじゃ、ないよ』

セイが身を置くことになったのは、二人部屋だが、隣の片方のベッドには誰もいなかった。
そこでセイは、いつも本を読んですごした。
気に入った動物の本をつつきながら、たまたま回診に来た担当に、愚痴をこぼすのも、常だった。

『わかってるよ。でも、残念ながら、出来ないんだ、ごめんね。はやく、良くなろう?』

担当は、決まってそう言った。

『元気だよ? どーして、あやまるのに、とじこめるの。ぼくは、どこが悪いの』

セイも決まって、聞く。
誰も答えてくれなかった。すぐに悟った。
これは、聞いてはいけないことなのだ。

「……よくなんて、ならないのかもしれない」

日が経つにつれ、ここから出られないのだろう、とセイは思うようになった。



――生活には、数ヶ月も経つと慣れ、セイは逃げ回るようになっていた。

どうせ小さな子にはわからないだろう、とほとんど説明を省いて、閉じ込めるだけの大人たちを、信用する気が全く起きなかった。

施設の隅々の部屋まで、たびたび抜け出しては記憶した。何かあったときに、どこからでも逃げるつもりだった。

ある日、いつもの採血の時間、いつものように逃げ回っていたときだった。
自分と同じほどの少女が、目の前を横切るのを見た。彼女は、綺麗な、栗色髪をしていた。
少し跳ねた毛先が、少しだけ開いた窓からの風で揺れた。
花びらが入って、舞った。前髪が乱れたのを気にして、掴みながら歩く彼女は、振り向くことがない。
なぜだか、どんな目をしているのか、気になった。
惹き付けられた。

後ろを振り返る。
まだ、誰も来ていない。
誰も、自分に気が付いてはいないだろう。
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