森と君と+呪いたち

□5:きみを呼んでる
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どうしよう。ここはどこだ。おそらく、先ほどの、自身の暴走のおかげで、身体に何かの変化があったらしい。いや、変化があったから、暴走したのだろうか?

もう引っ込まないであろう頭上の耳は、相変わらずにひょこひょこ動く。揺れる、というくらい微かだ。
ためしに、右、と脳裏に浮かべて見ると、ぐるんと右側に動いた。

「あー」

常にあった方の両耳をふさいで適当に声を出しながら反応をもう一度見る。しかし、やっぱり聞こえない。
なんだか、情けなくなった。こんな姿を、自分はどう説明すれば良いだろう。
頭上からも、何か聞こえたら、ぼくは違う種だったのだ、と諦めてしまえるような気がしたが。

「……そんな、簡単に、諦められないか」

では、どうやって、ここから出れば良いだろう。空腹が来れば、ここから出るのも、更に容易じゃない。

「空腹……」

呟いて、脳裏を掠めた映像は、シカ、ウサギ、何かわからない種の、大型だった。全般に言えるのは、それを、肉、として認識する自身。

そのことへ、違和感が薄くなっている。おかしい、川魚の天ぷらや、麦や、スープ、豆。浮かべるものはたくさんあるはずなのに。
考えれば考えるほど、浮かぶのは、肉、肉、肉、肉。血の味。皮の味。

「……やめろ」

そこまで考え、気付いた。これでは、まるで────
「やめろ、違う、ぼくは……」

苔から足をずらし、一段下に進もうとすると、ふいに足元でからからと音がした。
見ると、いつからあったのかわからない、たくさんの骨が、散らばっている。
おそらく、まだ新しいものだろう。もはや、冷静に捉えることなど出来なかった。

「あ……あぁ……」

叫んだ。自分はこんなに声が出せたのだろうか。知らなかった。ひたすらに叫んだ。狂ったような気がした。なんだ、これは。なんだ。こんなの、違う。

──何が? 何も違わない。 お前は、こちらに属する生物だろう。

もう一人の自分が現れて、冷静に、自分を見下した。ついに、幻を見ているのだろうか、とぼんやり思う。
「違う、そんなの、認めない」

──母がいなくなった理由、姉がいなくなった理由。ちゃんと気が付けて、良かったな。

「なにを言ってる……気が付いてなんか、いない、わからないよ、それなら説明してみろよ、ぼくは、何も答えられないんだ!」

妄想を掻き消そうと叫んだ。叫ぶしか、気持ちを保つすべが浮かばなかった。



少し落ち着いてくると、幻は嘘のようにいなくなった。
とにかく、進んでみようという気になったので、前へ足を動かした。

一段低くなった場所からゆっくり降りてみる。ひときわに大きな木があった。
目立つのに、どうして、気が付かなかったんだろう。大きすぎて、視界に入り切らなかったのかもしれない。
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