森と君と+呪いたち
□5:きみを呼んでる
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木の全貌を拝もうと近づいてみたところで、懐かしい感覚が溢れてきた。
それは、確信だった。
今までどうして浮かばなかったのかが不思議なほど、森に関する思い出が脳内を巡る。
「──ここ、来たことが、あるんだ」
近くで見ると、それは、もう枯れているようだった。枝は、触ると、ほろほろと落ちてきそうな感じがした。根元からは、黒い液が染み出している。
何かの終わりを象徴的に語っていた。
確か、以前は緑が繁る、いい香りの木だったはずだ。
どうしてか、その頃の記憶が鮮明だ。姉に連れられて、ここに来た。
一人目の母がいなくなって、少ししてからだ。
姉はたくましかった。厳しかった。優しかった。
……そうなのだと、今は思う。
それから、近くで詰んだ花を供えた。あの、黄色い花だった。
『いい? ここには、一人で近づいちゃだめだよ』
『……少し、痩せてない?』
『こら! 聞いてるの?』
『聞いてるって、うるさいな』
自分を残して行った彼女らは、最期に何か思っただろうか。それとも、もう心を決めていたのだろうか。
『あのね、セイ。私、終わらせてくるの』
『……終わらせ、て?』
『そうだよ。皆でね、決めたんだ。いーっぱい、考えて、もう、悲しい思いをする子が出ないように、戦ってくるんだ』
『危ないこと、じゃないよね』
『ううん。一番偉い主様に、お願いに行くだけだよ』
彼女は、母がいなくなったときに、もう覚悟したのかもしれない。
――――何かを。