森と君と+呪いたち

□8:痛みに慣れ、温もりも痛む
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 そう感じ、頭を隠すようにしながら、ぎゅっと目を閉じて、家まで走りだす。しばらくして、何があったのだろうか。一瞬、間があってから、辺りが突然、やけに静かになったので、恐る恐る、振り向き、辺りを見渡し、ぞっとした。


たくさんの人が、こちらに向かっているのを見たのだ。武器を従えている。先ほどの間は、その準備のためだったのだろうか。追いかけてくる。

「ほら、あいつだ」

仲間を大勢連れてきた、先ほどの大男が、こちらに叫んだ。

「あいつか」

「あの化け物は、素手で触ってはいかん」

口々に、辺りの人がこちらを指さしてきて、怖くなって、どこでもいいから逃げたいが、足がすくむ。たぶん、曲がり角に入る唯一の、狭い、分かれ道は、すでに塞がれているんだろう。
 もう逃げ場が、思い付かなかった。そもそも、どうして、こんなにも地元の人たちに指さされているのだろうか?

「──ぼくは、その……」

 何か言ってみようとしたが、うまく言えない。

「返せ! おれの──」


 誰かが、何かを叫んでいたのを聞いた。だけど、後半がよくわからない。他の人たちも口々に言った。返せ、と。

「か、返──」


石が飛んできた。何かもわからない、粘着性のあるものが、飛んできた。

 セイは、咄嗟に避けて、そして、気付く。なぜだか体が軽い気がしたことに。飛んでくるものを、余裕を持ってかわすことが出来、全く疲れた感じがしないのだ。運動など、ほとんど出来た試しがなかったのに。
追いかけてきた中には、小さな子どももいた。セイは、よくわからなかったが、だんだんと、愉快になってきた。たまらない思いで跳ね上がり、ぼろけたレンガ屋根の上に着地する。
もう、理性など、ほとんど効いていない。


 そこからはたくさん並ぶ、屋台が見渡せる。肉が焼かれていた。セイは、それが欲しいような気がした。たたたん、たたたん、とリズミカルに飛んで、走る。
安定しない屋根の上は、誰も、追い付いて来られないので、笑いが込み上げた。


「どうした、ほら、もっと本気を出せ、全然疲れないじゃないか! あっはははは! ひひひひひひっ!  おなかすいたー! 邪魔するなら、お前らも仕方ないからこの牙の餌食になれ!」
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