犬の間
□Part.2
1ページ/2ページ
モロ
姪が小6の時、下校中に車から降りてきた男に腕を掴まれ、危うく連れ去られかけるという事件があった。
激しく抵抗していたら、どこからともなく仔犬が現れて、猛然と男の足に噛み付いたと言う。
男は驚いて逃走し、事無きを得た。
仔犬は姪を送るように家までついて来た。
話を聞いた両親は仔犬に大変感謝し、そのまま家で飼う事にした。
仔犬は真っ白だったので、当時公開されていた映画にちなんで「モロ」と名付けられた。
モロは成長するにつれピレネー犬のような巨体となり、相変わらず何かにつけて姪を守ろうとした。
川遊びで姪が危ない方へ行こうとすると体を張って制したり、散歩中に見知らぬ人が近づいてくると低く唸って追い払おうとした。
姪が病気で寝ているときは、一日中心配そうに添い寝していたらしい。
だがあまりにモロが付き纏うので、姪は少々迷惑そうだった。
よく周囲に、「ちょっとウザい」と漏らしたりもしていた。
姪が専門学校生になって暫くした頃、家に彼氏を連れ込んだ。
モロはじっと彼氏を見ていたが、珍しく部屋の隅で大人しくしていた。
彼氏は、両親に結婚の許可を得るために来たらしい。
両親は驚いたが、姪が「できちゃった」状態である事がわかり、結局後日やや渋々ながらOKの返答をした。
姪は冗談で、「新居に移ればモロに付き纏われずに済む」などと言っていた。
そうして2人は結婚。
新婚旅行に出かける飛行機の中で、姪は地上からモロがじっと見送ってくれているように感じたらしい。
そしてその夜、モロはいなくなった。
出入り口はどこも閉まっている状態だったので、どうやって外に出たのか未だに謎。
旅行から帰ってきた姪は泣きながら町内中を探し回ったが、モロの姿はもうどこにも無かった。
姪は今でも、モロのハーネスを宝物のように持っている。
この話は、親戚の間では「少し不思議な話」程度に伝えられているが、姪の旦那にとっては間違いなくオカルトであろう。
彼は若干遊び人風だったのだが、「〇〇(姪)を不幸にしたら、どこからともなく巨大な白い犬が現れ、お前の喉を食い破るぞ」と親戚中から脅され、今は一生懸命働いている様である。