籠の中の蛇

□二夜
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ジャーファルに成り代わったと知ってからだいぶ年月がたった。

あれから私は仕事という名の暗殺をしにいった。

いくら姿が子ジャーファルでも中身はれっきとした平々凡々な人間なわけでいきなり暗殺とか無理だ…!…なんて思ってたのだが、不思議と覆面男が刃を向けてきた時と同じように体が覚えているらしく、そんな淡い心配は霧散した。

でも、そこで初めて人を殺したときは自分の何かが音を立てて崩れ落ちた気がした。



…もう明るい日差しは浴びれない…と。



でも、もう数えることができないくらいに殺すと何も感じなくなって、つくづく慣れは恐いものなのだと思い知らされた。





さて、そうやって過ごして私の性格は捻くれてしまいました。

中身はチキンなくせして外見と口調はすこぶるやさぐれてしまったのです。

この前も情報収集で居酒屋的なところに行ったときにガタイがすごくて大きい人に絡まれたときなんて…



『殺されてぇみたいだな!!!ァア!?』



『(なんでこうなったなんでこうなったぁぁあああ!!??いやだよマジでごめんな
さいすいませんすいませんマジすいません!!)…死ぬのはお前の方だ。』



この後、ガタイの良いお兄さんは路地裏にて伸ばしました。

気を抜くと加減ができず殺してしまうからかなり苦労したのも覚えている。

こんな感じに中身はチキンで外はやさぐれてしまいました。





また、いろいろな体験もした。

沢山からだに傷をつくって両足に長くて深い傷を負った。
…これは本当に死んだ…と思ったよ、うん。
想像をはるかに超えた痛みというか…痛みを超えて裂傷だよ。



でも何とか生きた。



そして、すごい事実がわかった。


日常として欠かせないトイレ。
下にはいていたものを脱いでびっくり。











……アレがない……



元は女だったしジャーファルは男なわけで…いろいろ覚悟した結果がこれだった。



そこであれ?…と思った。



漫画に出てくるジャーファルは男だよな…どうやってもおかしいよなこれ…と。
でもここは、中身は女体だったからなんらかの影響が出たんだろうと考えて黙った。



でもこの疑問はそれで解決することはなくなった。







数年、いや十数年たって私は24歳になった。









…さて、ここで何かがおかしいと思ったであろう。







私はいまだに暗殺業をやめてはいない。



つまり、











シンドバッドに会うことがなかったのだ。





たしか10歳ごろにシンドバッドを暗殺しに行くものの、それがないままついには24歳になって、ひとつの答えがでた。







ここはマギの世界ではない。







確かに迷宮やマギ、ジンなどはこの世界にも存在している。

けれど、シンドリア王国だけ…何故か存在していない。





つまり…ここは私の知るマギの世界とは違った平行世界(パラレルワールド)のマギ
の世界なのだと…。







この結果にたどり着いたとき地のどん底に落とされた気がした。
目の前が真っ暗になって言いようのない絶望感が体中に纏わりついた。





(もう…この闇から抜け出すことはできない…)













その事実を突きつけられてから数か月、私は任務のためにバルバットを訪れていた。



バルバット共和国第一皇子兼現バル
・・・・・・・・・・・・・・・・
バット国王…アリババ・サルージャを
・・・・・・・・・・・・・・・・
暗殺するために。





ここの世界では、アリババが第一皇子であり、アブマドとサブマドは皇子としては存在していない。

アリババの家臣としてアブマドとサブマドは存在した。

そしてバルバットは現国王の手によって共和制を取りくんだ国となった。



が、そんな国を良しとしない国があった。



鍠帝国だ。



そんな鍠帝国からアリババを暗殺せよ…と依頼されて私を含めた組織全体でバルバットを訪れたのだ。



…が、私は今絶賛迷子中になっていた。





「ここ…どこなのさ。」





にぎわうこの国にスラムなんて一つもなくて、どこも人々がにぎわいを見せている。
おかげで同じ組織の人とはぐれてしまった。





「どうしよう…」



単独で王宮に行くか…このまま町を歩いて合流するか。

どっちみち帰ったらお仕置きが待っているんだろうな…



(…憂鬱。)





そうやって町を歩き続けているも人々のにぎわいは途切れることもなく、私はふと、周りを見渡した。

視界に写る人々は皆笑顔で輝いていた。





眩しい…そう思って目を細めた。





(ここは明るい…この国は平和なんだな。)





改めてそう思わせられる。

そんな国をつくりあげた国王を私たちは今から殺すんだな。

そう思うとここ十数年で消えたはずの罪悪感が少しだけ蘇る。





(いけない…とまどっちゃ…)





でなければ自分が殺されてしまう。





自嘲気味に笑い、俯いて感情を殺すようにしていると、地面がぐらりと大きく揺れた。

いきなりの事にバランスを崩してしまい地面に倒れ込んでしまう。

ドスッと鈍い音が響いたとおもったら意識がブラックアウトした。











ここから新しい出来事が起こるとは今の私には露も思わなかった。



          
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