籠の中の蛇

□四夜
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「ザイナブさん荷物ここにおいておく。」

「ああ、ありがとうシロガネ。」

本物のマギの世界にきて、霧の団に世話になることになり早一週間がたった。
ここの生活にはすぐに慣れて今では団の中では周りの人に頼れる存在まで不本意ながら上り詰めてしまった。

ザイナブに頼まれていた荷物を運び終え、さて、この後は何をしようかと考えていると遠くから私を呼ぶ声が聞こえたので、呼ばれた方を見るとこちらに向かって走ってくる少女と少年…テルーとハイラの姿が見えた。
全力で走ってきたのだろうテルーとハイラは側までやってくるとゼェゼェ息を上げていて、その姿に苦笑する。

「シロガネお姉さん!」

「テルーにハイラ。どうした。」

「どうした…じゃないよ!今日は広場でお話しする日じゃんか!」










・・・ヤベ、忘れていた。


私がこの拠点で世話になる代わりに、アリババは、子供たちに自分が回ってきた国の話とかを話したりするというのを条件にした。
私は別に霧の団に世話になるのはさらさらなかったのだが、子供に甘く、ここにくるまで一応世話になったテルーにお願いされて、渋々ではあるが霧の団にはいったのである。

霧の団に入ってからというもの、カシムたちのように夜な夜な貴族の屋敷に攻め入って金銀などを奪い取る仕事は、何故か、しなくてもいいとアリババに言われ荷物運びなどの手伝いや、子供たちの世話を主にしている。
そして定期的に広場や部屋に子供たちをあつめて冒険譚を話しては子供たちに世界を教えている。

・・・黒歴史部分はもちろん伏せて。

そして今日がその冒険譚を話す日だったわけだが、ザイナブの手伝いですっかり忘れていた。
やってしまった・・・と反省しつつ、目の前にいる子供二人を見る。
私がすっかり忘れていたことがわかった二人は見てわかるほどに怒っていた。
とくにこの二人は将来は旅に出ていろいろな国を巡るらしく、毎回毎回私の話をそれはもう読んで字のごとく食い入るように聞くもんだから、すっかり機嫌を損ねてしまったようだ。

「(あちゃー…怒らせちゃったな)悪かった。今日は少し長め目に話してやるから許してくれ。な?」

「むー…しょうがないな!絶対にだよ!」

「ああ。」

ハイラの言葉に二つ返事すると、二人の機嫌は直ってくれた。

・・・よかった。
右手をテルーに、左手をハイラにがっしり掴まれ、早く行こうとグイグイ引っ張っていく。
そんな様子に苦笑しながら、冒険譚の続きを待つ子供たちが待つ広場へ向かった。



さて、今日は何を話そうか…。















そんな私たちのやりとりをカシム含め、アリババ、ザイナブ、ハッサンは穏やかに見つめていたことに、私は気づくことはなった。






「行ったねぇ。」

「ああ、そうだな。」

ザイナブの言葉にハッサンが頷く。
その場に座る四人は先ほどまで子供たちといたシロガネのことについて雑談していた。

「あいつがきて、なんか餓鬼たちの表情が生き生きし始めたな。」

「そうだな、サルナーなんてこの前他の餓鬼たちと混ざってシロガネと遊んでたんだぜ!?」

「本当か!?あの内気で引っ込み議案だったサルナーが…」

ハッサンが言った言葉にアリババがびっくりしていた。
思わずその場から立ち上がるほどに。

「初めは得体が知れないし、ニコリともしなくて胡散臭い奴だな…とは思っていたけど、案外面倒見もいいしよく働くやつだったから正直驚いたよ。」

カシムは葉巻をスゥ…と吸って当時、シロガネが来たころのことを思い出していた。

自分がシロガネに抱いた第一印象は変人で何を考えているかわからない奴…だった。
出会いがしら、シロガネとアリババは言い合いをしていて、見た感じが方向的に方向的だったので、アリババがシロガネを襲っているようにしか見えなかった。

(ま、初めから分かっていたけどな…)

ただ単にアリババをからかっただけなのであるまあ、必死に誤解を解こうとするアリババに対してシロガネは驚くほど無表情だった。
一瞬でこいつはヤバいと分かった。感情のない目。
その奥に潜む闇は計り知れないと直感で悟ったのだ。
それと同時にこいつは俺と同じ闇を抱えて生きている…そんな意識から俺はあいつに対して同族意識をもっていった。

シロガネが霧の団に入って一週間、餓鬼たちはシロガネになつくようになった。
もとから子供の面倒には慣れていたのだろう、面倒見のいいシロガネに餓鬼たちのどこか暗い表情は日に日に消えていって、いまではバルバットの子供全員がどんなに貧しかろうが生き生きと暮らすようになった。
餓鬼たちにも俺たちには話せない悩みとかもあっただろうし、毎日の飯などを稼いでくる俺たちにどこか遠慮していてのびのびと遊ぶことはしなかった。
別に餓鬼は餓鬼らしく外でのびのび遊べばいいと俺はもちろんアリババやザイナブ、ハッサンももちろん他の大人たちも思っている。

だから一度、部屋にこもる餓鬼たちに外で遊んで来いといったことがあるのだが、いかんせん餓鬼たちは遠慮した。


"え、いいよ!兄ちゃんたちは毎日俺たちのために稼いできてくれるのに遊ぶなんてできないよ"


と言ってきた。
餓鬼のくせして一丁前に遠慮しやがって…とは思ったもののこれ以上は言わななかった。
だから、霧の団は裕福とまでは程遠いが、それなりの暮らしが出来るようになったのだが、どこか雰囲気が暗かった。

ところが、だ。
あいつ…シロガネがこの霧の団に入ってからその雰囲気が一変した。
見た目や態度は決して友好的とかそんなのとはすごく程遠い、むしろぶっきら棒で取っつきにくい性格だが、本当は心優しいやつなんだろう。
そんなあいつの本当の性格を餓鬼たちは察知したのだろう。
どんな餓鬼でもあいつによく懐くようになった。

少しでも餓鬼たちと入られるように、アリババと話し合ってシロガネには夜の貴族屋敷襲撃は参加させないことにした。
あいつは強い。
見たことはないが、第一印象で悟った。
正直なところ、あいつが戦力に加わればすごく助かる。

だが、決してシロガネにはさせないと決めた。
あいつがいれば餓鬼たちは明るいままだ。
必然的に霧の団は明るい。

「だから、シロガネには感謝している。」
(だから、シロガネには感謝している。)

俺の思っていたこととアリババの言葉が被った。
アリババも同じ事を考えていたんだろう。

「あいつのおかげで、この国の子供たちは明るくなった。」

だから、と続けるように言ってアリババは伏せていた顔を上げた。

「この国を早くなんとかしないとな。」

アリババの言葉にれも含めてザイナブもハッサンも強くうなずく。

「ああ、餓鬼たちのためにも。」

シロガネの為にも、

























この国の貴族もろともバルバット国王を殺さなければ…な。




 

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