籠の中の蛇
□五夜
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「あ、お姉ちゃん来た!」
テルーとハイラの二人に引っ張られるように歩いて広場が見えてくると沢山の子供たちが集まっていた。
そのうちの誰かがこちらを指さして叫ぶと、連鎖反応のように次々と子供たちがこちらを見てきた。
しまいには子供たちがこっちに走ってきてしまった。
「シロガネ姉ちゃんおそいよ!」
「またザイナブ姉さんたちのお手伝いしてたんだろ!そんなのほっておけばいいのに。」
どうせザイナブ姉さんの荷物は俺たちには関係ないものだし、ハッサン兄ちゃんとかに頼めばいいのに…と呟く少年。
若干、ザイナブさんひどい言われようだな…と思った。
「馬鹿言わない。毎日必死で食べ物を稼いできてくれてるんだ。私は行けないからお手伝いは当然だ。」
もし、みんなに関係ないものでも私が大きい荷物を運んでいたら君は手伝ってはくれないのか?、と少年に聞けば、少年は、する…と渋々と答える。
うん、いい子だ。
かまってくれないから拗ねていたんだな、と呟きながら少しだけ緩む頬を無視して少年の頭をグリグリと少しおさえるように撫でると、少年は拗ねてないやい!と照れた表情を必死に隠そうとしつつも顔を真っ赤にして叫んだ。
そんな光景を見た子供たちはズルイー!!!と叫びだした。
…みんな甘えたい年頃なのね。
「みんなの頭を撫でてやってもいいけど、お話しする時間無くなっちゃうが…」
そう呟くと子供たちは一斉にその場から離れて話をする定位置にぞろぞろと座っていった。
そんな光景を見て苦笑しつつも私も話をする定位置に座った。
「さて、じゃあこの前の冒険の続きを話そうか…」
話し始めると、子供たちは目を輝かして聞き始めた。
「…――ということで、今日はここまで。」
終われば、えー!と子供たちが、抗議してきたが、もう日も傾いてきていたことと、最近奴隷狩りが頻繁に起きていることを理由にして子供たちを強制帰還させた。
もちろん一人一人しっかり送り届けた。
奴隷狩りにあうなんてもっての外だし…。
最後の一人まできちんとおくってから、私も帰路につく。
行先はもちろんアジトだ。
しかし、アジトが見えてきてから何やら中が騒がしい…気がする。
なんだろうと疑問に思いながら中に入った。
「なんだってハッサン、もっぺん言ってみな!!あたしがいつ他の男に色目使ったってんだい!?」
「ちょっとそうじゃねえかな〜って、…そうだったらヤだな〜〜って言っただけじゃねえか!!」
ギャーギャー!!
・・・。
「何やっているの…?」
「あー、おかえりシロガネ。まあ…喧嘩だ喧嘩。」
ほっとけほっとけ。
そう言って葉巻をふかすカシム…なんでそんなに冷静なわけ?
アリババは度々こんなのが起こると言っていた。
…だからそんなに冷静だったというわけか。
そして、私が騒がしいのを気にしつつ中に入ると、ハッサンとザイナブが丁度痴話喧嘩を始めてしまったらしい。
・・・うん、いいタイミングだね。
呆然と見送る私に対してアリババとカシムは何やら現在絶賛喧嘩中なふたりの雑談をしている。
しばらくボーっと成り行きを見守っていると喧嘩もヒートアップしていったのか、ボコーッと鈍い音が部屋に響いた。
「「あっ!」」
アリババと私の声が見事に被る。
カシムはだんだん面倒くさげに顔を顰めていく。
そんなカシムの心情を喧嘩中の二人は気づかず(むしろ気づいていてもシカトするぐらいの勢いだ…)、喧嘩はますますヒートアップしていく。
「ふざけんな、おめーみてーな凶暴な女もう知るか!!」
「言ったね!!二度と許してやんないんだから!!」
「あ〜〜あ〜〜あ〜〜」
このままだと二人は別れてしまいかねないし、そうなると霧の団の空気も悪くなるし士気も下がる。
このまま放置してくと険悪な状況に落ちかねないとそこにいる者全員が思った。
見ると、丁度その中の一人がカシムに何とかしてくださいと頼み込んでいた。
頼まれたカシムは仕方がないといった風に重い腰を上げた。
「も〜〜〜めんどくせえんだよてめぇら!」
立ち上がったカシムは二人に近寄り、ゲシッと蹴り上げる。
「ハッサン、今すぐなんとかしてこい。そこの部屋、気が済むまで使っていいからよ!」
ホラぁ〜〜
ギャーギャー
さわんな〜!
めんどくさいとか言いながら二人の心配をするカシムに、場違いだけど少しだけ笑う。
なんだかんだいってカシムは優しい。
ザイナブはさっきのハッサンの言葉に傷ついたのか半分泣いているし、ハッサンもあれこれ言ってもザイナブのことが好きみたいだし、あとはあの部屋で愛を育m…じゃなくて、仲直りするだけ。
これでなんとか落ち着きそう…と思って安心しているとアリババが何か言いたげに今まさに部屋に入ろうとする二人を見ていた。
…なんだなんだ。
そう思っているとふいにアリババが口を開いた。
「そういやお前らさ――時々俺の隣の部屋でいちゃつくのやめてくれよ。」
途端真っ赤な顔をして言うアリババに二人が立ち止まる。
「………何言ってんだい、あたしらの勝手だろ。」
シレッと言うザイナブに更に顔を赤くするアリババ。
「気になんだよ!」
「そんなおめ――まさか一度も女がいなかったわけでもあるまいし…」
・・・
・・・・
・・・・・・。
「……本当に?なぁ、うそだろ?」
「うるさいよ!」
「おめぇ、どっか悪いのか?大丈夫か?」
「余計なお世話だよ、大丈夫だよ。」
二人に攻められもはや半泣きなアリババにカシムが後ろから近づく。
その表情はしごく真面目ですごく心配していそうな表情だ。
そんなカシムはアリババの肩に手を置いて至極真面目に言う。
「いや〜〜〜〜〜大丈夫じゃねぇだろ…
……女紹介してやろうか…?」
「真顔で心配すんなよ!!」
お前らキライ!!
そんなコントみたいな会話に内心爆笑(抑えきれずに肩が震えてしまっているが)していると、アリババがこっちを見ていた。
不思議に思って首をかしげていると、ふいに閃いた!といった表情になるアリババ。
「そうだ!シロガネ!」
私の名前を呼んでこちらに迫ってくるアリババ(怖い!)。
目の前まで来たかと思えば、ガシッと思いっきり両手で肩をつかんできた。
…地味に痛いですアリババさん。
「シロガネは付き合ったりとかしたことあんのか?!」
・・・・・・・。
はっきり言って近い。
ズイッて顔を近づけてくるからだんだん顔が(悪気はない)しかめっ面になる。
そんなことなんて今のアリババには関係ないらしい。
これは早めに答えてどいてもらうしかない。
そう自己解釈して考え始めるものの…この世界に来てからは育った環境が環境でそんなことする暇と状況ではなかったし…。
ああでも、中には暗殺の標的だった者に不覚にも恋に落ちてしまった人がいたなぁ……まあ結局駆け落ちみたいな感じになったみたいだけど…標的もろとも殺したし。
いやだって、こちらの情報が漏れる可能性があるかもしれなかったし、完璧なる裏切り行為だったから殺されて当然なんだよなー。
しかし、駆け落ちした二人を探すのは苦労したな・・・・・・じゃなかった、今はそんな回想している場合じゃなかった。
恋ねぇ・・・
「ある。」
「「「「えっ!?」」」」
うざっ。
いや、まあジャーファルになる前の私のことだけど。
意外だったのかここにいる人全員びっくりしていた。
特にアリババは信じられないといった感じにこちらを凝視してくる。
「マジで?」
もう一度問いかけるアリババにコクリと頷いてみせる。
途端アリババはわなわなと震えだし、うわ言のように俺は信じない俺は信じない…とぶつぶつ呟いてる。
そんなアリババにいつの間に近づいてきたのか喧嘩していた二人とカシムがアリババを囲んで必死に慰め始めた。
しかしアリババはうるせーっ!!と叫んで部屋に戻ってしまった。
あーあ…と呆れていると、ふいにカシムがこちらを見ていた。
「なぁ…本当に付き合っていた奴なんていたのか?」
どうやらカシムも後ろにいる二人も気になっていたらしい。
私は少し考える素振りをしてから口を開いた。
「…半分本当で半分ウソ。」
はー?なんだよそれ!とそれぞれ文句を言う3人をみて私はニヤリと笑った。
「だって、あそこで【いない】なんて言ったらアリババをからかうことができないじゃない。」
したり顔で言うと3人はうわぁ…と引いていた。失礼!!
しかし、カシムはクツクツと笑い始めてそうだなと頷いていた。
「相棒はからかいがいがあって面白いよな。」
「うんうん。」
お互い頷きあってこぶしとこぶしをコツンと当てあい、再び笑いあう。
ハッサンやザイナブたちも笑っている。
アリババには少しだけ申し訳ないとは思うが笑った。
こんな空気を温かいなぁ…と感じながら、ふいに、こんな生活が続けばいいのにな…と願った。
たとえ長くは続かないと思ってはいても願わずにはいられなかった。