籠の中の蛇

□六夜
1ページ/8ページ



「ばいばいシロガネ姉ちゃん!!」

「ばいばーい!」

「またね。」

今日も子供たちに冒険譚を話し、子供たちを見送った。
最後の子まできちんと送り届けると、私はアジトに戻るため、歩き始める。

アジトに帰ってみると、いつもなら皆笑っておかえり、と言葉をかけてくれるはずなのに、今日は違った。
皆それぞれ座ったり立っていたりして、深刻な表情で黙り込んでいる。

そんな中カシムがこちらに気づいたのか、うつむいていた顔を上げてこちらを見た。


「おかえりシロガネ。」

「…ただいま。」


何があった?とカシムに聞けば、彼は今から話すと言って、立ち上がった。
カシムが立ち上がったことで、みんなの視線がカシムに集まった。


「てめぇら聞け。……これで10人目だ。」


10人目…それは何の数なんだろうか。
カシムは憎々しげに顔をゆがませて、拳をギリギリと握りしめる。


「俺たちを閉じ込めた現・国王アブマド・サルージャを、貴族に恨みを果たす為に霧の団をたて、勢力を上げても未だに奴隷狩りの犠牲者が出てしまう。」


彼の言葉にハッとした。
そうだ、あれだけ注意しても力のない子供や女は奴隷狩りにあっていた。
そして、今回も奴隷狩りにあってしまったんだろう。
それでこうして集まっているのだ。


「餓鬼どもは幸い、シロガネが毎日見てくれるから狩りの被害はない…だがっ!!」


ダンッとカシムは握りしめた拳を自らの膝に打ち付けた。


「ついには俺たちの仲間まで狩りにあってしまった…!!」


その一言でザワリと周りが騒ぎ始める。
時間はない!
貴族を追い出せ!
王族を追い出せ!
無くしてしまえ!
殺してしまえ!
殺せ!
殺せ!!


周りの声が合わさり、異口同音に叫ぶ団の一員達。
それを、なにか焦ったように見つめるアリババと対照的に、冷めた表情で見つめるカシム。

私は戸惑っていた。
原作は霧の団の日常を細かくは描いていない。
もしも、原作とずれてしまったら…いや、そもそもこの世界は原作の世界なのか…。

混乱した頭で、なんとかしないと…と考えていると唐突にカシムが話し出した。


「三日後、今までよりでかい貴族の屋敷を攻める。」


その一言でザワザワと騒いでいた空気が冷めていく。
カシムは膝に打ち付けていた拳を胸の前まで持ち上げた。


「攻め入ることで、国に俺たちの力を思い知らせやろう!!」


カシムがそう叫ぶと、おおっ!!と全員がうなずき合っては拳を上げる。


「詳しいことはリーダーと話し合ってから決める…それまで解散!」


そうカシムが言うと団員はぞろぞろとその場から消えていった。
呆然と成り行きを見ていた私に、カシムが近づいてきた。


「シロガネ。」


呼ばれて、ハッとカシムに焦点を合わせた。

「知っての通り奴隷狩りが頻繁になってきている。」


そこまで言われて、彼が言わんとしていることに気づく。
…子供たちを決して奴隷狩りの被害にあわないように私がしっかりと守ること。
そのことに気づいた私はカシムを見て頷いた。


「子供たちは守る。」

「ああ・・・頼んだ。」


それから、私は部屋に戻った。
部屋に入って静かに固いベットに仰向けに寝そべる。


「三日後の貴族の家の襲撃って…あれだよなぁ」


つまりは、三日後で原作へと進んでいくということで…。


「…どうしよう。」


少なからず、原作の世界なんだと確認できて安心はしたものの、これから自分はどうして行こうか全く決めていなかった。
成り行きで霧の団には入ったものの、原作に関わろうとはまったく微塵にも思っていない。
でも、子供たちは守りたい。
しかし、それは必然的に少しでも原作に関わらないといけないということであって。


「…矛盾しているな…」


この世界…つまりは原作のジャーファルには会いたくはない。
だって、同じ顔をした奴にぱたりと会ってみろ、私なら絶対疑う。
というか、怪しまれる…

それに、


「ジャーファルとシンドバットに会ったら嫉妬で殺しそう。」


未だに嫉妬してしまう。
この世界に来る前…つまりは暗殺をしていた頃、どれだけ望んだことだろう。

・・・シンドバットに出会えたら…と。

そんな中、原作のジャーファルにあってしまったら…自分はこのどす黒い感情を制御できるかどうか…。
そっと、包帯に巻かれた首元を撫でる。撫でて苦笑する。


「やめたやめた。考え事は明日。今日は寝る。」


マイナス思考がヒートアップしそうになったので、考えることを放棄して、眠りの底へ落ちようと目を閉じた。








その日の真夜中、事件が起こることなんて、ぐちゃぐちゃな思考に飲まれた私は微塵にも思わなかった。


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ