漆黒の風

□03
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喉笛めがけて降り下ろされたそれをシンドバッドは瞬時に首を動かし、首の皮一枚を犠牲にしてなんとか避けた。


避けられた、さすがは七海の覇王。

もう一度苦無を持ち上げればバンッと扉が開く音がした。
流石に異変を感じ取ったか…。緑色のクーフィーヤを被った男と赤髪の男が入ってきた。
時間がない、そう思った私は一気に苦無を降り下ろした。

しかし、突如飛んできた暗器に苦無を弾かれた。
チッと舌打ち一つして、飛んでくる気配を避けるためにシンドバッドから身を退けて空中へ飛ぶ。
するとビュンッ!!と赤髪の男の蹴りが物凄い速さで駆け抜け、避けなかったらと思うと背筋が凍った。


「ジャーファル、マスルール助かった…」


シンドバッドがベッドから出て二人のとこへ向かっていくのを視界に捉えてハァ…と私はため息をついた。




(任務…失敗…かな)




まず、あの赤髪の男…マスルールといったか…あの男とは勝てる気がしない。
互角までは持ってけるかもしれないけど、あくまでも一対一のときに限るわけで無理だし、シンドバッド王も解放してしまった以上はてに余る。

そして、あのジャーファルとかいった男…確か元は刺客だったわけで、私と同じだから強い。

そんな三人が同時に掛かってくれば間違いなく死ぬ。
死ぬのは怖くない…だけど、まだホテルに残してきた子どもたちの里親を探していない。




正直、逃げたい…




(…でも、私が逃げたら…)



子どもたちの未来は









…ない。



「考え事とは…随分と余裕なんですね」



パッとその声で意識を戻せば眼前にはジャーファルとかいった男が扱う暗器が迫っていた。
咄嗟に苦無で弾いて後退すれば、後ろからのマスルールからの蹴りが迫っていて、交わしきれないと悟ると腕を組んで受け身をとる構えをした。

ドスッと鈍い音と同時に駆け抜ける痛みに顔をしかめつつ、壁にドンッ!!とぶつかって思わず呻き声を洩らした。

パサリと布が落ちる音がしたと思ったら呼吸が楽になったので、顔を覆っていた布が取れたのだと分かった。
それと同時に「女…なのか?」とか言う声も聞こえて正直面倒臭くなった。



顔を見られたのなら何がなんでも獲物は仕留めなければならない。

任務中に顔を晒すのは組織にとっては禁忌(タブー)なのだ。
だから、見られた相手はたとえ首が跳んでも殺さなければならない。


最悪の事態になってしまい、私はハァ…とため息をついた。
そして、同時に胸の奥がスゥ…と冷えていくのを感じた。
もう、組織に戻ることは出来ない。


スッと先程のマスルールの蹴りなんぞなにもなかったかのように軽い動作で立ち上がると、深く息を吐いた。



(あまり、使いたくは…なかったな…)



そして、腰に差してあった筆叉を抜くと纏う空気を変える。





もう、死ぬことを覚悟して。







シンドバッドたちは息を呑んだ。
マスルールの蹴りを食らったというのに何事もなかったように立ち上がったかと思ったら、彼女の纏う空気が一気に変わったのだ。

ジャーファルは双蛇鏢を構え、マスルールもいつでも動けるように構えをとる。
かく言うシンドバッドも構えるものの少女を見て悪いクセが疼きだした。
あの子が欲しい……そう思ってしまう。



パッと少女が消えた。三人はハッと少女を目を動かして探す。



「ここだよ」



そんなこえが声が聞こえたと思ったら目の前にいたマスルールが消えた。
直後ドカンッ!!と壁が壊れる音がしてそこを見るとマスルールが壁にめり込んでいた。

あのマスルールが…と思っていたら、「ガァッ!」とジャーファルが少女の持つ得物に肩を貫かれていた。
少女は得物を抜くと蹴りでジャーファルをマスルールと同様に壁にめり込ませた。




(強い…)




シンドバッドはツゥ…と冷や汗が額から流れるのを感じた。
一瞬で八人将の二人がやられたのだ。
最悪なことに自分のそばに金属器はない。



まさに絶体絶命。




「バイバイ王さま」




そう言って少女は得物を振りかざした。













死を覚悟した矢先、扉の方が慌ただしくなったと思ったら自分に向かって得物を振りかざしていた少女が視界から消えた。


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