漆黒の風

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「フォラーズ・サイカ!!!」




突如聞こえた声と思ったら壁に叩きつけられていた。
何が起こったのだと見ると新たに人がこの部屋に現れていた。
さすがにこの騒ぎに、王宮にいる人は気づいたのだろう。
気づけば、焼けた肌に白い髪の男や水色の髪の女、そして兵士たちが部屋の外にたくさんいるのだと確認した。
おまけに窓の外には金髪の少女と大きな鳥がいる。





もう逃げ道はない。
そう分かるとフッと力が抜けた。



「バララーク・セイ!」



いつの間にかジャーファルは起き上がっていて、私の体に暗器が絡み付いたと思ったら、ビリビリと体が痺れた。
体が感電したのと、先程の白い髪の男の攻撃にマスルールからの蹴りが合わさってさすがに体がにガタが回ったらしく指一本動かせなくなった。




「王、ジャーファルにマスルール無事か?」



「俺は大丈夫だ…しかし、ジャーファルとマスルールが…」




「私は大丈夫です。…貫通はしましたが、急所は外れてます。」




「俺も大丈夫ス」




「そうか……にしてもここまでやられるとは」




そこまで話して全員の視線が少女へと注いだ。
少女はこの視線のなかでも無表情で(とは言え前髪に隠れて表情は見えないが)俯いたまま微動だにしない。



「何処の差し金ですか…答えなさい」



「…」



ジャーファルが問うも少女は微動だにしないまま。
ジャーファルは双蛇鏢を更にきつく締め上げる。
ギリギリギリッと痛々しい音が響くも少女は頑なに答えようとしない。
いつまで経っても答えない少女に業を煮やしたジャーファルは腕を折る勢いで更に締めあげようとした時、シンドバッドが手を上げてそれを制した。


少女以外の全員がシンドバッドへと視線を向けた。
シンドバッドは未だに俯いた少女の目の前に近づいた。
「シンっ!?」とジャーファルの制する声にも構わず、目線を合わせるように屈む。


そこで、少女ははじめて顔を上げた。
少女の顔が上がるとここにいる全員が息を呑んだ。



それぞれ色の違う両の目に漆黒の髪、白い肌…暗殺者なのにどこか神秘性が秘められている容姿に皆呼吸をするのも忘れ見いってしまう。
そんな空気に少女は耐えきれず再び俯こうとするのをシンドバッドが慌てて止める。



「?…なんだ」


少女は抑揚のない声でシンドバッドを見つめる。
そこにはもはや先程の殺気が籠る鋭利な眼差しなど微塵もない。
ただ、静かにシンドバッドを見つめている。
しかし、次に出たシンドバッドの言葉は、この張りつめた空気を一気に和らげることになる。



「なあ…………ここで食客として俺の元に来ないか?」




「…………は?」




「「「「っハァアーーーーーーッ!!??」」」」




シンドバッドの突然の言葉に少女以外の全員が声を上げて叫んだ。
いや、少女も顔色ひとつ変えはしないが、シンドバッドの言葉に開いた口が塞がらない状態だった。

かくいう皆を驚かせた張本人であるシンドバッドは回りのことなど気にしないと言うようにニコニコと少女の返答を待っているだけである。
だかしかし、ジャーファルだけは皆より早く現実に戻りわなわなと震えながらシンドバッドの方へ近づいていった。



「ちょっ…何言ってんですか!!あんたさっきまで命狙われてたんですよ!?バカですか?いや、バカだあんたは!!」


「何もそこまで言う必要ないじゃないか!?…酷いよジャーファルくん…」


ジャーファルの敬語も忘れるほどの憤怒と暴言がグサグサとシンドバッドの心に突き刺さり、大ダメージをくらったシンドバッドはシクシクと泣きべそをかく。
そんなシンドバッドを見て、呆れてハアァ…と深ーくため息をはくジャーファル。


「酷いもくそもない!!…とにかく、私は反対です。」


ジャーファルの言葉に周りにいる人はその通りだとうんうんと頷く。
しかし、シンドバッドは、いいや!!と食い下がらない。


「いや、お前は分かっていない。お前も実際に味わっただろ!彼女は相当強い。」


「強いのは分かりましたよ。あのマスルールでさえ吹っ飛ばされたんですかr「えっマジで!?あのマスルールが!?」…シャルルカンは黙っていなさい!!」


シンドバッドとジャーファルの口論につい口を挟んでしまったシャルルカンはジャーファルにギロリと睨まれ、シュンッと縮こまってしまった。
しかし、マスルールが吹っ飛ばされたと聞けば周りもザワザワと騒ぎ出した。
そこで今まで口を挟まなかった水色の髪の女性、ヤムライハが口を出した。



「けど、それが本当なら彼女をみすみす離すなんて出来ないですよ。」



「そう!!でだ、このまま殺してしまうのは勿体無い!ならば、彼女をわが国の戦力としてしまおうじゃないか!なぁそう思わないか?皆!!」



シンドバッドの堂々たる言葉に、確かに…と周りも納得し出す。
それでもジャーファルだけは納得がいかないように顔をしかめたままだ。



「私はなにがなんでも反対です!!仮に食客に入れたとして再び命を狙われたらどうするんですか!」


「今このお嬢さんの表情見る限りそれはないと思うが…まぁその時はその時だ!




……それに、お嬢さんも何か言いたげだね。」



ジャーファルの剣幕にシンドバッドは、ははっと爽やかに笑うだけだ。
そして、彼は少女に視線を向けると、少女はおずおずと固く閉ざした口を開いた。


「私はもう任務に失敗したし、顔も見られた…だからもう組織からは見捨てられている。」




だから、と少女は続けて言う。



「組織のことを洗いざらい話すし、どんな拷問でもなんでも甘んじて受けよう。……ただ、王様にひとつだけお願いがある。」


先程とうって変わった雰囲気にジャーファルもそこにいる者たちも驚愕した。
ただ、シンドバッドは笑みを讃えたまま、静かに少女を見ていた。


「なんだ?聞こう。」



「……シンドリアの港近くの宿泊施設に私のと共に連れてきた子供たちがいます。」



「その子どもたちを………






……里親を探して引き取ってもらいたいのです」





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