お前なんか嫌いだ

□言えないよ
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「フランシス君、おはよう」
「ああ、おはようイヴァン」

挨拶をする
彼は何の気なしに返してくれるけれど、これが僕の最大限のコミュニケーションだってことはわかってない
もちろん、他にも話題はある
だが、彼と話すときはそんなことふっとんでしまう

「今日はいい天気だね」
いやいや今日は曇ってる
「お腹好いたなぁ」
いくらフランシス君の料理がおいしくても、まだ一時間前に食事したばかりだよ
「君は可愛いね」
言えたらいいな、そんなこと

フランシス君は可愛い
僕にとってもだ
他の人が怖がり避けていく中、彼は僕にもみんなと同じように接してくれる
僕にとって貴重な存在だ

彼の周りが「離れろ」なんて言ってたこともあった
結局、彼がどんな答えを出したかは知らないけど、いまだ関係に変化はない
すごく嬉しいことだ



「イヴァン、何してんの?」
「え?」

「珍しくボケ〜っとしちゃって」と笑う君は、とても優しくて
僕が難しく考えてた事がどうでもよくなる

「なにもしてないよ」
「そ?なんか悩んでんのかなと思ったけど」
「…」

凄いね
僕の顔なんか見ても悩んでるかどうかなんてわからないよ、普通
というか、普通僕の顔をまじまじと見る人なんてナターリャくらいだよ

「なーに?お兄さんに言ってみなさい」
「…フランシス君、どうやったら人から愛されるかな」

ラジオの解答以外でね、と釘をさす
フランシス君は「わかってる」なんて笑う
でも、真面目に考えてくれて

「やっぱり、好きになることだよ」
「好きになる?」
「そ、自分が人を好きになるんだ。そうすれば、相手に何をしてあげたいかわかるでしょ?」
「へー…」

好き
フランシス君、僕は君が好き
何をしたらいいかなんて明確にはわからないけど、一緒にいたいよ
でも、そんなの嫌でしょ?

「…」
「お兄さんもね、そういうことあったよ」
「そうなの?」
「うん…好きになった相手がさ、今までにないタイプの人で、何をしたら喜んでくれるかわからないんだ」
「フランシス君もそんなことあるんだ」
「今回ばかりはね、ホントに好きだから」

そっか、ホントに好きなんだね

「そいつから離れろなんて言われたりもしたけど、そんなことできないでしょ?だから、今も普通にして、でもやっぱり気にしちゃうんだ」

ふー…ん?
フランシス君?

「やだねぇ、愛してるどころか挨拶しか返せないんだから」

挨拶…?

「そいつ腹減ってたらご馳走しするし、悩んでたら相談にのるけど、そもそも顔にでないからなぁ」

腹減った?相談?顔?

「おまけに戦争以外じゃ鈍い鈍い、俺がなにしようが気づいてくれないし」
「…」

どうしよう、困ったな
なんていえば良いんだろ

「イヴァン?」
「え?」
「どうした?」
「あ、いや…」

どうしよう、ホントにどうしよう

「ふ、フランシス君」
「なに?」

そうだ、何か言わないと
聞いてみなきゃ、それが、僕の思い浮かべてるひとかどうか
それくらい、いいよね

「僕、その人に心あたりあるんだ」

君は驚いた表情で、恥ずかしがる僕をみつめる
わからないとか思ったの?


「でも、言えないよ」

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