お前なんか嫌いだ

□嘘だろ
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「おい」
「お兄さんはおいじゃありません」
「腹減った」
「勝手にしなさい」
「…」

今日はフランシスの家に来てやった
いつもなら「いらっしゃいモンベベ!」くらいいって一緒に夕食を食べる
だが、今日はタイミングが悪かったらしい

「…何見てんだよ」
「い、いや、別に…」
「あっそ」

フランシスは苛立ちを隠せないらしい
いつも優しい目は、今日は鋭く刺し殺されそうなほどに鋭い
ことの発端は一時間前
会議が終わって、後で家にいくぞと告げて別れた
俺はそのまま買い物をして家に来た
フランシスも、同じく買い物をした
が、そこでイギリス人美女にあったらしい
あくまでもイギリス人なのだが、やはり声をかけたそうだ
そしたら「貴方好みじゃないわ」と断られたそうだ
それが悔しいよりも苛ついたようで、さっきも「イギリス人は嫌いだ」なんて言いやがって

「…」
「…そんなにお兄さんの顔が好みなの?イギリス人なのに?」
「お前なにいってんだよ、たかが一回の失敗だろ」
「…へぇ…」

気にするな、という意味で言ったのだがフランシスにはそうは聞こえなかったようだ
ゆっくりとした動作で足を組み換え、冷たい目が突き刺さるほど見つめる

「いや、別に変な意味でいったわけじゃ…」
「そーよね、イギリスちゃんには『愛の国』なんて肩書きもないし一回のナンパじゃ気合いも入らないよね?」
「だから…」
「イギリスちゃんは真面目で紳士だからたくさんいる女性のたった一人に嫌われたくらいじゃ傷つかないもんね?」

本気で怒っているようだ
足の上に何気なく置かれた手には青筋が立っている
そんなに怒ることだろうか?

「あ、そんなつもりじゃ…「あ?」

話を遮って睨み付けてくる
昔に戻ったみたいな目だ
怖くて動けない
冷たい声のフランシスはさらに続ける

「お前ってほんとデリカシーないよね、まあそれがお前なんだけど」

前方のソファに座っていたフランシスは立ち上がってこちら側のソファに近づいてくる

「俺がさ、ただナンパ失敗したのが腹ただしいとでも思ってるの?」
「…」
「そりゃあ面白くないけどさ、正直失敗することなんてどうでもいいのよ」

「あの話には続きがあってね」とフランシスは隣に半ば飛び込むようにして乱暴に腰をおろす
その硬い腕が首にまわされる

「あの女性には彼氏がいたよ、スペイン人のね」
「スペイン人?」
「そ、無駄な幸せオーラを振り撒いてヘラヘラしたふざけたやつ」

それはアントーニョに言っている気がするが、とにかく気に入らなかったらしい

「そのスペイン人と彼女はなか良さそうで、ハートを浮かべながら行ったよ」
「…」

その話の何処が嫌なのだろう
ただ彼氏もちの女に声かけた話なのだが

「そのイギリス人さ、お前に似てたわけよ」
「は?」
「お前がアントンと仲良いみたいで腹立つ」
「…」
「なあ、お前はアントンと俺ならどっちがいい?」

そう言ってまわした腕で俺を引き寄せる
どっちって、そんなの、聞かないとわかんないのかよ

「どっち?」
「ど、どっちって…そんなの、お前だろっ…じゃなきゃしょっちゅう来るかよばかぁ!」
「ふーん…」

フランシスの表情筋がやっと緩んだ
が、やはり目は笑っていない
探るように見つめてくる

「それってさ、今俺が怖いから言ってるわけじゃないよね?」
「ち、違う!怖くない!」
「へぇ、でも震えちゃうんだ?」

フランシスの腕に力が入り、俺を密着させる
すると、自分が震えているのがよくわかった
怖いけど、別に嫌いなわけじゃない
そもそも俺に非はないのに

「なんで嘘ついたの?」
「べ、別に、嘘とか…」
「怖いんだろ?」
「怖くね、けど…」
「嘘、怖くないのに震えないよ」
「そんなんしるかよ、勝手に震えてるだけだ…」
「…」

フランシスは気を悪くしたらしい
掴まれている肩が痛い

「お、怒るなよ…」
「…俺さ、そううやって隠し事されるの嫌い」
「痛っ…」

爪を立てられる
隠し事って、こんな状況でお前が怖いですなんて言えるかよ

「離せよ…」
「やだ」
「何がしたいんだよ」
「さあ?お前になにかしてほしいんだろうね」

そう言って顔を近づけてくる

「怖い?」
「…」
「何したらいいか、わかる?」

いつものような明るさのない顔が見つめてくる
顔が、というか何を言われるかが怖い
だから、口を塞ぐ

「ん…」
「っ…ふっ…」
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