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□ある日の幼子達は
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声の主はイスの上にいた。
この家のポケモンだ。
彼はイスから降りると、ゆったりとこちらへ歩み寄った。


「暇そうだな、若いの。」

「うん、アンタのとこの坊っちゃんがオレサマのパートナー連れてっちゃったからね。」


刺を含む言い方でジトリと睨む。
しかし、彼は気にもとめずにまた笑った。
彼、へルガーはイッキとシュンのお母さんが結婚した時に一緒に連れてきた彼らのお母さんのパートナーらしい。
黒い毛に、ところどころに見える白い毛が彼の年齢を語っている。


「わたしがバトルの相手をしてやれればいいのだが、こんな老体相手にしてもお前さんはつまらんだろう。」

「オレサマ、お年寄りボコる趣味ないし。」

「ははは。
ふむ、ならば一つ、昔話でもしてやろうかね。」

「どんな?」

「そうだね…お前さんの主や家の坊達がまだ幼子だった頃の話なんてどうかな?」


名無しちゃんの小さい頃の話か。
うん、それ聞きたいな。
素直に告げると、彼は優しく笑んで語り始めた。


「あれはよく晴れた日のことだったか…」












八年前、まだあの子達はほんの幼子だった。
それはそれは元気で可愛らしいやんちゃ坊主達でなぁ…。
歳も近いことと近所のことだけあって、あの子らは兄弟同然に育っていったよ。
忙しい彼らの両親に代わって、わたしはいつもあの子らの世話を焼いていたものさ。

そんなある日の事だった。
この家の隣に、ひと組の家族が引っ越してきたんだよ。
その一家には坊達と歳が近い女の子、名無しちゃんがいた。
あの子は昔から変わらないな、その頃も変わらずおっとりのんびり、よく寝る子だったよ。

子供ならではだろうなぁ、坊達は早速名無しちゃんに会いに行ったのさ。
『友達になるんだ!』って意気込んで行ったはいいが、帰ってきたあの子らの顔は浮かない顔だった。
どうも名無しちゃんは我関せずてな具合でずーっと話しかけるあの子らを無視し続けたらしくてなぁ。
涙目になってたシュンやヒョウガをシリュウが慰めていたのをよく憶えているよ。
でも、それで火がついたのかセイヤを筆頭に、暇さえあれば誰かがあの子の傍にいたねぇ。
意地なのか純粋な努力なのかは最後には分からなくなっていたがね。



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