短編

□80cmの距離
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私は、生徒会書記をしています。

今、私は事務作業をしてます。
他の生徒会メンバーは、
部活のため私1人での作業。

の、はずでした。

「この量を、佐藤1人で
やるのは大変だろう。
俺も手伝おう」

と、かの有名な
テニス部レギュラー柳蓮二が
自ら手伝いをかって出てくれた。

手伝ってくれるのは、
嬉しいけど

なんだか、私1人じゃ
この仕事は出来ない、と
言われている気がして
少し落ち込んだ。

本来なら、部活をしているであろう
その時間に

柳くんは、私と一緒に
生徒会室で書類と向き合っている。

一緒に居られるのは、
とても嬉しい。

手伝ってくれるのも、
とっても嬉しい。

書くという動作1つでも、
様になる、柳くんが
実は、好きだったりする。

一番好きなのは、
テニスをしてる姿。

運動している彼は、
もっと格好いい。

その、彼がこうして
部活の時間を潰していると思うと
なんだか、申し訳なくなって来た。

これは、私の仕事なんだから
私は1人で出来るから、
だから……
もう、部活行ってよ、柳くん!


「はぁ…」

知らず知らずの内に
私は、ため息をついた。

「どうした?
先ほどから、手が止まっているが」

「……何でもないよ」

どうしたもこうしたも、
全部、柳くんのせいだ!

いや、それは流石に
責任転嫁しすぎか…

「佐藤、お前は、
俺に、嘘が通用すると思うのか?」

「思わないですね」

「ならば、どうした?」

どうやら、理由を言わない限り
逃れられそうにない。

ただ本当の事を言うのは、
嫌だったので、
適当に嘘をついた。

「それで?」

「へ?」

「だから、それで本当は
何を考えていたのかと聞いている」

どうやら、
やり過ごせなかったみたいだ。

柳くんの鬼!

「柳くんなら、わかるんじゃない?」

半ばやけくそになって、
そう言ってみた。

「俺がここにいることが
関係しているのだろう」

「………」

わかってるなら、
部活行きなよ。
と、言ってやりたくなった。

柳くんがいると、
緊張して逆に仕事が
手につかないんだと、
言ってやりたい。

だけど、そんなこと言ったら
何で緊張するんだ、
とか掘り下げて来そうで
怖い。

なんにせよ、
口を滑らしたら
足元掬われてしまう。

言動には、要注意だ!

好きだなんて
バレたくないんだから。

「とりあえず、仕事やろう?
後少しだしね」

「佐藤」

仕事に、戻ろうとした私に
柳くんが声をかけ、
結局、作業は中断したまま。

「この、机と机を
向かい合わせにした距離は
どのくらいだと思う?」

向かい合わせ?
今の、この距離だよね。

だいたいで、見た感じの
予想を言う。

「1mくらい?」

「正確には、80cmだ」

それが、どうしたのだろうか。
突拍子もない
この会話に、
私は戸惑っていた。

「この距離。
もどかしくないか?」

「へ?」

この距離がもどかしい?

「手が届きそうで
届かないこの距離を、
俺は、ひどくもどかしく
思っている」

これが、どういうことか
わかるか佐藤。

と、柳くんに問われる。


少し考えて見たけれど
よく分からない。

「どういう意味?」

「俺はな佐藤。
お前に触れたいんだ」

「え?」

驚いて、ポカーンとした顔を
しているであろう私を見て、
柳くんは微笑んだ。

「今日は、ここまでにしよう。
また、明日な春」

そう言い、向かいの机側から
私に手を伸ばし
頭を撫でてから、

鞄を持ち、生徒会室から
出て行った。


「名前……呼ばれた…
……頭…撫でられた……柳くんに…」


【80cmの距離】
この日を境に、
柳くんがやたらと
近くに来るようになった。










2012.04.03

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