短編

□これからは、
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「前から好きでした!」

はあ、勘弁してよ。
図書室なんだから、
静かに本を読ませて。

「すまないが、その気持ちには
応えられない」

告白のお相手の声は、
テニス部の参謀こと柳蓮二。

糸目な彼は、
頭が異常にキレる。

会話してると、負けた気分に
いつもさせられる。

と、自分の世界に入り込んでいたら

「ここに居たのか、探したぞ」

と声をかけられた。

告白した子はいつの間にか
図書室から、出て行っていた。

「探してる途中で
捕まったんだ?」

「なんだ、聞こえていたのか」

すぐ側なんだから、
当たり前じゃないか。

「で、何のよう?」

私、本読みたいんだけど。
と付け足す。

「急に部活がなくなったからな
久々に一緒に帰ろうかとな」

「ふーん」

「嫌か?」

そう聞かれると、困る。
嫌じゃないから。

むしろ、一緒に居たい。

いつも部活ばかりで、
構ってもらえないから。

ただ、私の意地が
素直に返事をさせない。

嫌じゃない。
と一言言えば済むのに
口に出来ない。

黙っている私を見かねた
柳が、動きだす。

「彼氏より、本がいいか?」

そう言いながら、
後ろから私を抱き締める。

なんて卑怯なんだ。

本より、柳に決まってるじゃない。

あぁ、ずるい。

「本は明日にする」

そう言うと、

「そうか、よかった」

と言って
ひどく安心した顔をして
私の隣に腰掛けた。

そんな顔、ずるい。

ずるい。

ずるい。

柳は、ずるい。

私より部活が大事。

私より生徒会が大事。

私より幸村くん達が大事。

私より呼び出しを優先する。

私よりデータ。

私より宿題。

私より、私より、私より……

柳の中で、
私より優先順位の低いことなど
あるんだろうか。

彼氏だなんて、
柳は言ったけれど

いつだって、柳の時間で
動いてる。

私の予定より柳の予定。

黙り込んだ私に、
柳が言葉をかける。

「どうした?」

なんだか、今日は
反抗したい気分になった。

「やっぱり、本読みたいから
今日は、いいや。」

「そうか。
ならば、下校時間まで
俺も本を読もう」

なんでだ。

帰ればいいじゃないか。

「ところで、春。
今日が何の日か知っているか?」

「さぁ?
お茶の日とか?」

柳は、深くため息をついて
私に近づいて来てキスをした。

なんなんだ、一体!

軽くパニックになっている私に、

「今日は俺たちが、
付き合って半年だ」

そうだったんだ…
全然、覚えてなかった。

柳は座っていた椅子を
私の方へ寄せて、
抱き締めた。

「お前は、いつも冷静だな」

そんなことはない。
口に出さないだけで、
心の中は、いつも大慌て状態。

とくに、柳と一緒の時は。

「お前が、どんな顔するかと
今まで色々試していたが、
俺が期待していた反応は
見られなかった」

「試して?」

何を試していたというのだろうか。

「春が、嫉妬するかと
思ってお前を蔑ろに
していたんだが……」

春は、いつも平気そうな
顔をしていたからな。

と、腕をほどきながら言われ
今までのことが
わざとだったのだと知る。

じゃあ、私が今まで
我慢してきたことは、
無駄だったということだ。

なんてことだ。

素直に言えばよかったんだ
私を優先してって、
私を見て、と。

「もっと早く言ってよ、バカ」

もっと話そう、貴方と。

もっと知ろう、貴方を。


「春?」

「すごく、嫉妬したんだから。
辛かったんだから…バカ」

「そうか、すまないな」

そう言い、もう一度力強く
抱き締められた。

柳の腕の中で、
安心したのは初めてだった。

「ねぇ、読書より
どこか寄ってきたい!」

付き合って半年目の今日。
私は初めて、柳に我が儘を言った。



【これからは、】
もっと貴方と、一緒に居たい。

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