短編
□し あ わ せ
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いっつもいっつも、貴方は先を行ってしまう。
貴方の見ている未来は、今の時代にはまだまだ受け入れられないような、そんなものなに。
「龍馬」
「うん?どうした、名無し」
「無茶しちゃやだよ」
京まで追いかけてきた。ずっとずっと先を見ている貴方は、決して後ろを向いてはくれないんだもの。
「龍馬…」
振り返って、銃の手入れをする彼の背中から離れて、真剣なその後ろ姿を見つめる。
「いつの間にか、貴方は、何処かにいっちゃうね。いつもいつも……」
私はいつも、置いていかれてしまう。彼が江戸に行った時も、土佐藩を出奔した時も。
「……風みたい」
視界に捉えることが難しいくらい。それでも。
「おいおい、本当にどうしたんだ?いつものお前さんらしくないぜ」
「……たまには、私も感傷的になるわ」
手入れを終えたのか、振り返った龍馬が笑う。
「風じゃあ触れられんが、俺は此処にいる。名無しが追いかけてくるなら、待っててやる。…そう心配しなさんな」
そっと髪を撫でてくれる大きな手。
「…ううん、いいよ。龍馬は、前を見て進んでて」
「うん?」
「私が、追いつくから。絶対、絶対に」
龍馬は、前に進まなければならない人。そして、前に進むべき人。ならば私は、彼に追いつくだけ。
「でも、でもね?お願いがあるの」
「うん?」
「私の前に、いてね」
私の視界に映っていて。目指す場所を、見失わないでいられるように。
【視界に君がいること】
(それだけで私は、頑張れるから)
title by:Aコース