短編
□満月の夜
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満月の夜は、嫌いだ。
「…眩しい」
現代ではそれほどでもないが(それより街の明かりの方が強かったから)、この異世界では、この時代では、満月の明かりは強すぎる。
あの子を、思い出す。
「……」
「名無しちゃん…?」
後ろからかけられた声に振り返りもせずに、唯、立ち尽くした。
「…満月、嫌い」
「?」
「…あの子を思い出すから、嫌い」
どんなに暗い闇をも照らす、眩しい光。たくさんのものを、彼女は照らして、守った。
「……福地さんは、満月、好き?」
「いや……、どうだろう……考えたこと、なかったから……」
「……福地さんらしい」
ゆき以外に興味がない彼らしいと思う反面、何にも興味を示さないそれを、憎らしく思う。
「……眠らなくて、いいのかい?」
「…眠くないの」
満月の夜はいつもそう。眠れなくて、唯月を睨みつける。
「福地さんはもう、寝た方がいいよ。もう遅いし」
「でも…」
「いつもの事だから」
満月の日に眠れないのはいつものこと。心配いらないと、笑う。
「大丈夫だよ。明日もちゃんと、戦闘に加わるし」
「そういうことでは……」
「大丈夫。ホントだよ?」
納得してない顔で頷いたのを尻目に、もう一度空を見上げる。
「……、大っ嫌い」
私の運命を狂わせた人。私の心を壊した人。そして一番の、親友だった人。
「…名無しちゃん、」
「わっ…」
ぐっと後ろから腕をひかれて、その胸に顔を埋めるように倒れる。
「…泣いて、いいと思うよ…」
「な、んで……?」
「泣きたい、んだろう……?だったら……」
「泣けないよ……」
それはもう既に枯れ果てたもので、私にはもう、許されない行為。
「私は、もう……」
唯満月を見て、睨んで、憎んで、怨むことしかできない。そしてそれを、永久に繰り返すことしかできない。
-------満月の夜
(私は唯、彼女を憎み続けることしかできないのだ)