短編
□満月の夜
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「今日も、眠らないのかい?」
「…うん」
あの満月の日から時々、福地さんは夜中に散歩する私の前に現れる。
「別に私、眠らなくてもいいのだもの。眠ったほうが体力の回復は早いけど、眠らなくたって身体には何も不調はない」
それが私にかかった呪い。永久に止まった、回り続ける私の歯車の。
「そうだとしても…その、ゆきちゃんが心配しているよ…?」
「……そう」
そう言われても、戻る気はなかった。まだ、戻れない。
「…今日は、箒星が落ちるわ」
「箒星…」
「禍の前兆かしら?それとも吉兆?」
現代からすれば、流れ星など唯の光の尾であって、吉凶に深く関与するものではない。
「それでも、私たちの時代では、流れ星に願いをかけるのよ」
「流れ星が何かを、知っていても…かい…?」
「そう。消えるまでに3回願い事を唱えられたら叶うって」
それは不可能だからこそ夢を描き、人は先に進む勇気を得るのだと、言う人もいる。
「…何か、願い事が?」
「………願い事なんて、忘れたわ」
眠れなくなったのは、最近のこと。満月の夜以外にも、眠れなくなったのは。
それでも、毎夜流れる流れ星を探して空を見上げる。どうせ眠れないのだから。
「…名無しちゃん?」
「…福地さん、もう戻って」
「でも……」
「…一人でいたいの」
流れ星にかける願いは、叶うはずのない願い。誰にも聞かれちゃいけない呪い。
「……わかった」
彼が鬼の力でもって消えたと同時、空を滑り落ちていく小さな星。
---------流れ星に願いを
(叶うことなら、この永久の生を終わらせて)