短編
□渇望したもの
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最初から、望めるはずもないものだと知っていた。
例えその瞳に自分が映るはずもないと、自分にも彼にも、未来がないものだと知っていても。
「瞬、あのさ――」
「ゆき!」
彼の瞳にはいつでもゆきしか映っていなくて、彼の一番はいつだってゆきなのだ。
ほら、今もそう。転びそうになったゆきを支えて。
私と、話していたのに。
「…まったく、ゆきったらホントに変わらないね」
「ごめんなさい、名無し…」
「怒ってないったら」
よしよしと撫でる、少し下にある薄桃色の髪。私だって、この少女が大好きだ。但し、彼の存在を消滅させる力を有しているのでなければ。
「ちょっと疲れてるのかもね。ちょっと早いけど今日は切り上げる?」
「それがいいだろう。ゆき、いいですか?」
「え、大丈夫だよ。もう少し情報を集めたいし…」
「ダーメ。情報なら私たちが集められるし、今日は結構怨霊封印したからゆきは休憩するべき!」
渋るゆきを都と共に先に宿に帰し、京の怪異の情報を集める為に散開する。
「…それで、何かあったのか?」
「うん?」
「さっき何か言いかけていただろう」
「気づいてて無視したんかお前」
口が悪くなるのはご愛嬌だ。確かにさっきのゆきは危なっかしかったから仕方ない。仕方ないけれど、ちょっと悔しかったのは間違いないのだから。
「……べーつに。何でもないよ」
「…そうか」
それきり会話が途切れる。主に私が道行く人に聞き、瞬が分析する。いくらかの情報を集めて、そうして私たちは宵の迫る道を歩く。
「…ねー、瞬」
「なんだ」
「……明日は、なにしようか?」
考えるなど、無意味なことなのだろう。私たちには未来などない。
「……お前は、お前の望むままにすればいい。お前は、一族の血には縛られていないのだから」
例え瞬や崇のように血に縛られていなくても、私とて過去が変われば消える定めだ。
「……馬鹿みたいだね、こんなおかしな世界なんて、なければよかったのに」
一族の力を引かなかった、異世界の未来から現代に送られた私と、一族の力を継ぎ合わせ世の未来から訪れた瞬と、そうして出逢った奇妙な定め。
「……なんで、出会っちゃったんだろうね」
「……神子を、護るためだろう」
「私には、……いい。何でもない」
願ったって、もう変わらない未来なのだ。この現実が変わり得ないように。
「私たちには、未来なんてないのだもの」
キミトノミライ
(それは、)
(いくら望もうとも、与えられないもの)