短編
□真白の願い
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「……何の用だよ、瞬」
「……ゆきの顔でそんな言葉づかいをするな」
ふんと鼻で笑い、椅子に腰かけて足を組む。瞬は余計にむっと眉を寄せたけれど、そんなこと知ったことか。
「そんっっなに、ゆきが大事?」
「当然だ」
「唯一の肉親より?」
「、崇のことは関係ない」
「あーあ、崇ってばかわいそー。あんなにお兄ちゃん大好きなのに」
くつくつと笑って、足を組みかえる。
どうしてこいつらは、自分の世界しか見えていないのだろう。世界は、見えているものだけではないのに。
「何…?」
「あたしはねぇ、瞬。ゆきを守るためにいる。そのためだけに。ねえ、それなのにどうして、あたしの方が崇のこと知ってんの?」
言葉を飲んだ瞬に、にいっと唇を吊りあげる。
「哀しいのは、つらいのは、自分だけだと思ってるの?瞬」
「お前は、何が言いたい……」
「消えるのに恐怖する心を、あんたなんかに否定される筋合いはないよ」
どうせ消えてしまうのならと、諦めている人間に、消えたくないと願う心を理解できるなんて思わない。
「ゆき、あたしだけのゆき。ずっとずっと、あたしが守ってきたんだ」
お前なんかに何がわかる、そんな思いを込めて睨みつける。
「崇のことも、あたしがずっと見てきたんだ。あんたなんかよりずっと」
崇が眠れない夜、瞬が一緒に居てやったのはホントに短い時間だけだった。肉親にしか与えられない安堵を、与えることをしなかったのが瞬の罪。
「そんなやつに、ゆきはあげないよ」
くすくすと笑って、あたしは目を閉じた。それはゆきと交代する合図。
「誰にもゆきは渡さない」
真白の願い
(ゆきが幸せなら、あたしが幾ら憎まれようとも構わない)
20121107