螺旋

□第5箱
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■第5箱
 もしも…■



 転校してきて早数日。
 天霧達の様子を観察していたアヤ。接触するためにも手芸部に入部した。


「2年の井上 アヤです。よろしくお願いします」


 一礼をして、顔を上げる。目的の人物は笑顔でアヤを迎えていた。


「あたしは部長の大月 茜(おおつき あかね)。よろしく」
「よろしくお願いします。……ところで、あの人の周りには人がたくさんいますね」
「ああ。矢嶋さんね」


 人が多い事に若干驚くも、それを話題とし、部長と話す。もしかしたらこれで彼女を呼ぶのかもしれない。
 そう思っていたら案の定、部長は彼女を呼んだ。


「どうかしましたか?」
「井上さんが貴方の事を知りたいらしいのよ。ほら、人が集まってるじゃない?」
「ああ…、迷惑でしたらすみません…」


 別に迷惑じゃないわよー。部員だし! 、と部長。
部活の一環だから"迷惑"じゃないわ! 、と部員達。


「愛されているんですね、ええっと…矢嶋さんは」
「ありがとうございます。井上先輩、私に敬語はいりませんよ」


 そう言われたら敬語を無くす。
 少しずつだが、距離を短くする。


「先輩はどうして、ここに?ヴァイオリニストで有名じゃないですか」


 "ここ"というのは恐らく手芸部の事だろう。予め考えて置いた言葉を言う。


「物を作るのが好きで、ヴァイオリンは家でも出来るから、学校は別の部活でって決めてたんだ」
「そうなんですか」


 "物を作るのが好き"―
 そこに嬉しそうに瞳を輝かせた彼女。距離は随分と短くなったようだった。
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