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□全てを把握していたい荒北
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逢瀬と呼ぶには短すぎるお昼休み。
人気のない藤棚の下。
私達が想いを伝え合って、初めて唇を合わせたこの場所は2人で過ごす場所の定番になっている。
ごく稀に一緒に取る昼食。
先に着いていた彼が、私気に入りのミルクティーご丁寧にストローまで差し込んで渡してくれる。
意外と優しい、お兄ちゃん気質だと知ったのは付き合ってから。
痩せの大食い、とはまさに荒北くんの事であって、コンビニのレジ袋から取り出されるオニギリやパンが次から次へと口の中へ消えていく。
炭水化物ばかりの食事が気になり、自分のお弁当からブロッコリー箸で摘んでを差し出す。
少し伏せられた目線の彼に『ぱくん』と音が聞こえそうな程、綺麗に吸い込まれた鮮やかな緑色。
もう、こんなやり取りに照れる事も無くなった。
食後にゴクゴクとべプシを飲み干した彼が、こちらへ視線を向ける。
「なまえ、指どうしたのォ?」
指?と思って自分の両手を見て見ると、中指の爪に小さな黒い血豆ができていた。
そういえば机の端に手を掛けていたら、前の急に椅子が引かれて指が挟まれてしまった。
大した痛みは無かったのに爪の中の皮膚は意外に繊細…
とそこまで話した所で急に手を取られた。
「誰?」
飢えた野獣の様な目付きで、荒北くんが私の中指にガブリと歯を立てる。
爪と皮膚の間をこじ開ける様に彼の尖った舌が左右に動かされる。
馴染みのない感覚に咄嗟に手を引いたけれども、彼は私の手を離さない。
「誰ェ?」
日焼けした指先で私の爪を撫でながら再度問う彼の表情はあまり見かけるものではなく、背筋をゾクリとしたものが這う。
「なまえチャンの、前の席の、アイツ?」
ゆっくりと、ハッキリと問う彼の声は狂気に満ちて聞こえて。
いつもはチャイムがなる直前、ぐるり、と軽く辺りを見回した彼から重ねられる唇。
今日は視線が私から離れる事は無く、噛み付くように唇が重ねられた。
「何かあれば言えって言ってるだろーが」
彼女の、どんな小さな事も知っておきたい。
強い、強い独占欲。