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□はじまり
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入学と同時に履き始めた、まだ真新しい靴のはき心地を気にしながら歩き慣れない道を進む。

家族で外で夕食を取る事になっているので、車で迎えにくるという兄に指定された場所まで歩く。
学校から少し離れたその場所は、箱根学園の生徒が使う道とは少しずれているらしく、同じ制服は見かけない。



兄の車を見逃さない様に通り過ぎる車を一台一台目で追っていく。
と、その時おなじ箱学の制服を目に止めると、知っている顔が同じくこちらを見ている事に気づく。


荒北靖友くん。同じクラスで目立っている彼が、なぜかこの道を歩いてくる。確か寮生だったはずだけれど。

リーゼントに反抗的な態度。声をかけ辛い相手ではあるけれども、こんな所で出会って無視するのもどうかと思い勇気を出して声をかける。


「荒北くん、だよね、どこか出かけるの?」
「あぁ、マズったなぁ…」

ボリボリと頭をかく荒北くんは、通りから死角になっている所から原付をひっぱり出して来る。

「オメェこれ誰にも言うなよ、ここ停めんの穴場なんだヨ」


なるほど。原付を隠して停めるには学校から丁度良い距離だ。
「荒北くん免許持ってるんだ、すごいね」
「すごかねぇだろ、誕生日早えーだけで。お前こそこんなトコで何してんのォ?」
ヘルメットを引っ掛けながら原付に跨る荒北くんを眺めていると、少し離れた所に車が止まり、名前を呼ばれる。

「なまえ!」
「あ、いま行く!車待ってたんだ、じゃあまた明日ね」

同じクラスの彼が、意外にもちゃんと話をしてくれた事が嬉しくて笑顔で手を振り、兄の車に駆け寄り助手席に収まる。


「…チッ、彼氏かァ?」
そう彼が呟いた言葉は、生憎私には聞こえなかった。





==数日前==

ベプシを買いに行こうと、放課後道を歩いていると女が1人しゃがみこんでいるのが目に入った。
足元には、子猫。子猫。
猫チャン!と駆け寄りたい衝動を抑えたのは、しゃがみこんでいた女に見覚えがあったから。

同じクラスのみょうじなまえ。割と目立つ女。

長い髪にちっちぇ顔。短いスカートから伸びる白い脚は細く、入学式を終えた教室に、新入生を物色しにきた上級生が騒いでいた事を思い出す。


すぐに同じ様な短いスカートの女達と連み始めたため、一人際立って目立つ事は無かったが、すぐに名前を覚える程印象深い容姿だった。


恐る恐る猫チャンに手を延ばす様子からして、飼った事はないのだろうと予想はついた。結局撫でる事は諦めたらしく、代わりに携帯でだれかと難しい顔をしながら話をしている。
一瞬でパッと急に表情を明るくしてみょうじが立ち上がると、携帯をしまってが猫チャンに向かって何か声をかけて一人走り出した。


…猫チャン!チャァンス!と、俺が駆け寄よりミャーミャーと鳴く子猫に手を伸ばしていると、チャリで通りかかったオバちゃんが話しかけてきた。

どうやら飼いたいらしい。うんうん、子猫チャンは可愛いもんなぁ。教師の話は聞かないけれども、猫チャンの事となるとどんな奴とも話してしまう俺ってどーなの。

聞けば、以前飼っていた事もあり、できれば旦那さんを亡くして一人暮らしのお姉サンに託したいと。泣けるじゃねぇか。

オバチャンはそのままひょいと猫チャンを抱え上げ、颯爽とチャリで去っていった。


…幸せになれよ、猫チャン。

と、ベプシを買う目的を思い出しコンビニへと足を向けると、短いスカートを翻し、息を切らせながらながら猫チャンがいた方へと走っていくみょうじなまえ
とすれ違った。

手にはコンビニの買い物袋。
透けて見える牛乳を見ると、恐らく猫チャンに買ってきたんだろう。

見つからない事に落胆した表情になり、再び携帯を取り出し耳にあてている。


フーン。
派手な女だと思っていたけれど、いいとこあるじゃねぇか。猫好きに悪い奴はいない。あ、違う、俺は悪い奴だけどォ!!


何にせよ、しゃがみ込んでいる時に声かければ良かったナァ。
そうしたらパンチラ位は…と、数ヶ月後に話したら殴られそうな事を思いながら、珍しく上機嫌で歩を進めた。






==翌週==

「オイッ!おぶね…!」
バシィッとボールがぶつかる音と、突然暗くなった視界。

大きな音に体を竦め、襲ってくるだろう痛みを、体を硬くして待つ。
あれ…痛くない…

視線を上げれば、腕を顔の横に上げ、私に覆いかぶさっている…荒北くん。

至近距離に驚き、無理やり喉を震わせて言葉を紡ぐ。

「あ、りがと…」
一瞬合った視線をサッと外され、サッカーボールを拾い上げた彼は、すぅっと振りかぶり、
「この…ノーコンがァァァ!!」
という怒声と共にボールを投げ返す。

思いがけず美しいフォームに目を奪われる。
碧い風が見えた気がして、彼以外の景色が消える。

あぁ。きっと私は恋をする。生まれて初めての恋。



=荒北=
みょうじなまえが前を歩いている。

…髪、なんでこんなサラサラなんだヨ。
と思った所で、近づくボールが視界の端に入る。

バシィッ!
条件反射、だったと思う。庇おう、なんて考えていなかった。体が勝手に動いた。

瞬間、ふわっと漂う甘い匂い。
固まる小さな肩。
次いで上がる視線。

全てがスローモーションの様で。

長いまつげに縁取られた目が俺を捉え、小さな唇が動いた瞬間、顔が赤くなるのを自覚して、誤魔化すためにボールを全力で投げ返す。

顔が勝手に赤くなる。
息が、し辛い。

なんだこれ。チクショー。なんなんだよ。

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