紡時物語

□おんぶ
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「ふぁ〜……んっ…!」




地面に座り込み欠伸をして身体に伸ばしたのはゼフォン
伸ばした後に見るのは少し前方にいるフェザートライブの青年、ブートゥルーガ
ブートゥルーガは弓を構えている




「……ねーぇ、まだやるの?」




二度目の欠伸をしながらブートゥルーガへ問う




「うむ。ラスカリス殿に基礎の教えは請うたが、それは動かぬ的でだ。やはり動くものを射抜けなければ意味がないだろう」




弓の弦を引き狙いを定めパシュッと矢を射る
狙いを定めた獲物は砦から出た少し先、湖南の谷にいるソルジャーボア
ブートゥルーガの射た矢は見事にソルジャーボアを仕留める




「さっきから見てるけど、もう大丈夫だと思うよ?今のところ百発百中に近いし…いい加減戻ろうよ。ボク飽きた」




「後少しだけ付き合ってくれ」




「…ていうかさーぁ?なーんでボクなの?」




木の幹に背を預けさせながらブートゥルーガへまた問う




「特に理由はない」




「なにそれ」




「しかしだな、付き合ってもらうならゼフォン殿が良いと思ったのだ」




「…意味わかんない」




会話をする最中もブートゥルーガは一生懸命弓の練習をする
会話のある程度のところでゼフォンは立ち上がる
ゼフォンはブートゥルーガが射抜き仕留めたソルジャーボアの近くに行き、その牙を収穫していった




「ホントにもうやめない?こっちも結構材料集まったよ」




そう言ってゼフォンは集めた牙の入った袋を指差した
それなりに数が入っているのは見た目でわかる




「ふむ…そうであるな。わかった、戻ろう」




「やっと戻れ……あ、ブートゥルーガうし………あーっもう!」




「む?うおぉっ!?」




収穫する際に屈んでいたゼフォンは帰る為に立ち上がる
そしてブートゥルーガへ再び視線を向けた時に見たのは突進してくるソルジャーボア
ブートゥルーガは気が付いていない
ゼフォンは気が付いていないブートゥルーガへ指摘をしかけるが、それでは反応が遅れ思いっきり体当たりされるのが容易に予想出来る
ゼフォンは咄嗟に走りブートゥルーガへ飛び付く形でソルジャーボアからの突進を回避させた
当然飛び付く形なので二人揃って地面へ倒れる




「あたた…ゼフォン殿いきなり何を!……はっ、い、いかんっ…てぃっ!」




未だにソルジャーボアからの突進に気が付いていないブートゥルーガ
ガバッと起き上がるといきなり飛び付いてきたゼフォンにちょっと怒りかけたが、そこでようやく突進されてきている事に気が付く
わたわたいそいそと弓を構え一気に連続でソルジャーボア目掛けて数本矢を射る
全て当たる事はないが数本のうちの幾つかが命中し、ギリギリのところで仕留められた




「…………ほ…――ゼフォン殿、大丈夫か?!」




流石に少しの危機感を味わった
安堵の息をついたブートゥルーガはゼフォンの肩に触れる




「平気だよ。あー…痛かった」




ブートゥルーガの膝元辺りに乗っかかっている体勢なゼフォン
大丈夫かと聞かれ、平気と答えた




「それならよかった…いやいや、ゼフォン殿がいなければオレは突進されていただろうな。感謝する」




「別に…なんかあったら後味悪いもん」




言いつつゼフォンはブートゥルーガの膝元から身体を退けてペタンと座る




「わはは、助けてくれた事に代わりはない。さて…戻ろうか」




笑いながらブートゥルーガは立ち上がり、ゼフォンへ戻るよう促す




「そうだね。よっ…―――っ!」




「ゼフォン殿?」




ゼフォンも立ち上がる。否、立ち上がろうとしたが未遂
立ち上がらないゼフォンを不思議がり、ブートゥルーガは隣で屈む




「ゼフォン殿、どうした?」




「なんでもないよ。先に行って」




「何故?」




「なんでも」




「それでは納得出来ん」




「あー、もう…とにかくいいから行ってってば」




「…むぅ……………ちと、失礼」




「痛っ!ちょ…!離し…っ!」




理由を話さないゼフォンに納得がいかないブートゥルーガ
少しの間、ゼフォンをじーっと見つめると断りをいれてから手でとある場所を緩く握った
とある場所とは左の足首で握った矢先、ゼフォンの表情は苦痛に歪み痛がった




「やはり……」




痛がるゼフォンの反応に確信がつくとブートゥルーガは足首から手を離す




「…〜っ!あーもう!いきなり掴まないでよっいったぁあ…」




珍しくゼフォンが感情を剥き出しにして怒った。しかも目にはうっすらと涙が




「ゼフォン殿が嘘を言ったのが悪いのだ。なんでもなくないではないか。…さっきオレに飛び付いた時に挫いたのだろう?」




「…………」




ブートゥルーガの問いにゼフォンは無言でプイッとそっぽを向く
ゼフォンのその仕草が可愛らしいと密かに思った




「意地っ張りだな。やれやれ…意地を張るのは勝手だが、その足では戻れんだろう。ほら、オレの背に乗るといい…おぶってやるぞ」




さささっとおぶされるように体勢を変える




「へ…」




「何をしておるか、早く」




「………えー…」




抵抗があるらしく怪訝そうなゼフォン




「だっこにするか?」




「ごめん、そっちの方がヤダ」




「ならば、早く乗るのだ」




「はーい…」




拒むゼフォンにだっこの方にするかと言って負かしたブートゥルーガ
観念したゼフォンは渋々ながらブートゥルーガの背中に身体を預け、ゼフォンが背中に乗るとブートゥルーガはゆっくりと立ち上がり歩き出した




「ゼフォン殿は軽いのだな」




「なに、いきなり?」




「いや、そう感じた故に」




「自分が軽いか重いかなんか知らないよ」




「それもそうであるな」




「そうだよ」




とてとて、ぽてぽてと歩く




「…………」




もふもふと気持ちがいい
ゼフォンはおんぶされる中、そう感じた
そしてその気持ちよさから自然と瞼は閉じる




「時にゼフォン殿…………ゼフォン殿?」




「………」




静かになり反応しないゼフォンにブートゥルーガは不思議がる
そこへ聞こえたのは、規則正しい寝息




「………寝た、のか?…ふむ…またひとつゼフォン殿を知れた気がするな」




そう呟くブートゥルーガの足取りは軽く、表情は嬉しそう
それからというものブートゥルーガはゼフォンを一際構うようになったとか…









END
2012224



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