NOVEL2(夢現奇譚の番外編)
□桜散る
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優しいほのかな光を放つ月が、痛み傷ついた身体を優しく包んでくれる。
いつもならばこんな朧月の夜は、月の光に応えるように静かに甘い芳香を漂わせながら、咲いた。
香りを楽しむ者。
花を愛でる者。
様々な人々が思い思いに、その大きな大樹を見上げ想いを馳せた。
そんな人々を見ているのが、とても好きだった。
だがもうそれもできなくなる。
先程まで咲いていた花は、今はもうない。
花をつけていた枝という枝は、全て折られて地に捨て置かれた。
抵抗する「力」を持っていたのに、彼の想いを知った途端。
ああ、自業自得なのだと思った。
今まで逃げていたことに対する、罰なのだと、そう思った。
散りゆく最期の花びらが一斉に空へと舞い上がる。
痛みの増す四肢を懸命にこらえて。
再び「還る」為に、彼君の前に顕現する。
やがてこの大樹も全て斃れ、還るのなら。
そして再び出会うことができるのなら。
今度こそ逃げずに彼らと語り合いたい。
時を越えても変わらない想いや、願いがあるのなら。
いつかまた、この桜の下で。
終