トリップガール

□魔女の森
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リネットさんが作ってくれた美味しい料理に、楽しい会話。
私たちはとても愉快な夕食の時間を過ごした。
しかも優しいリネットさんはデザートにとっても美味しいアップルケーキまで振舞ってくれた。

出会ったばかりで、どこから来たかも何も知らない私たちにここまで尽くしてくれるなんて……
感謝の一言じゃ表せないくらいだよ。


アツヤ『そういえばさっきから気になってたんだけど、親はいつ帰って来るんだ?』

リネット『えっと……その……』


今までの楽しい雰囲気も一変。
アツヤの何気ない問いかけで一瞬にリネットさんとリーシェの顔から笑顔が消えた。
その空気で、聞いてはいけないことを聞いてしまったことを感じ取った私たちはチラチラと目を合わせる。


リーシェ『……お父さんとお母さんはもう帰って来ない。』

リネット『……リーシェ。』


リーシェの隣の席に座っていたリネットさんは今にも泣き出しそうなリーシェの小さな体を優しく抱きしめる。
そしてゆっくりリーシェから体を離したリネットさんは優しく頭を撫でた。


アツヤ『わ、わりー。余計なこと聞いちまったな。』

リーシェ『ううん。大丈夫。』


頭を横に振ったリーシェは笑顔を見せたがどことなく無理して笑っているのが分かる。
リネットさんも空気が暗くなったのを一言謝り、水を口に含んだ。

すると机の端に立っている写真立ての写真が私の目に飛び込んでくる。
そこにはお父さんとお母さんも含め、家の前で幸せそうに笑っているリーシェたちの姿があった。
二人が今より幼く見えるところから判断すると一、二年前くらいの写真なのかな。

なんてことを考えながら写真を見ていた私に士郎が話しかけてくる。


士郎『優しそうなご両親だね。』

美空『そうだね。』


本当に幸せそう。
こんな笑顔。本当に幸せだからこそ自然と出てくる笑顔だもんね。

リーシェたちの幸せそうな写真を見ると私まで心が暖かくなり、いつの間にか笑顔がこぼれていた。


リネット『みなさんに一つ忠告しておきたいことがあります。
あり得ないと思うかもしれませんがどうか信じて下さい。』


いつになく真剣な眼差しで私たちを見てくるリネットさん。
その表情でとても大切なことだと感じ取った私たちはリネットさんの目を見て頷いた。


リネット『この町の奥の森。
私たち町の者からは“魔女の森”と言われているのですが……
その森には絶対に近づかないようにして下さい。』


“魔女の森”。
そのフレーズにゾッとした私は一瞬で凍りついた。


士郎『魔女の森……ですか。』

アツヤ『でもまさか本当に魔女が住んでいる森なんかじゃ……』

リネット『そのまさかなんです。』


半分は軽い冗談だと思っていた様子のアツヤだったが、すぐさまきっぱりと断言されてしまい、またまた固まる私たち。
そんな私たちを見て次はリーシェが口を開く。


リーシェ『しかもその森に住んでいるのは魔女の“亡霊”なんだ。』


ただでさえ魔女という単語にびびった私なのに次に耳へ飛び込んで来たのは“亡霊”という単語。
私は一気に青ざめてしまった。


リネット『本当に恐ろしい魔女なんです。
子どもだとしても悪気がないとしても、森の中へ入ってきた人間には容赦ない仕打ちをする。
そんな魔女に……私たちの両親も殺されたんです。』


美空『それじゃあ、リネットさんのご両親も森の中に入ったんですか?』


リーシェ『でもお父さんとお母さんは町に災いをふりかけてくる魔女と仲良くするために森に入ったんだよ!
これからは仲良く一緒にくらしていこうって言いに!
美味しいマフィンもわざわざ用意して!』


何も悪いことなんてしてないのにと感情的になったリーシェはとうとう涙をこぼして泣き出してしまった。

でも魔女っていっても一応人間だ。
死んで幽霊となっても町の者を襲うことなんて出来るのか?
たしかに例外として死人のアツヤがここにいるわけだけど……
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