romanzo

□05
4ページ/5ページ





いつもの様に薫先輩を観察していたら先生に捕まった。



「ちょうどいいところに!なぁ、鎌谷、これをお前のクラスに持っていってくれないか?」



有無を言わせず持たされたのは次の授業で使う地図。

しかも3本。プラス資料のプリント達。



「先生他にも準備しなくちゃいけなくてさ」




返事も出来ずに持たされた数々。
そして先生は去っていった。
何で僕がこんなことしなきゃいけないんだよ。
周囲には誰もいないし、仕方ない。運ぶしかないか。

今日の薫先輩観察記は書けないな。
というか、1人でこの量を運ぶとか無理ありすぎでしょ!







「光希?」



落とさないようにと集中していたら前の方から聞き慣れた声がした。




「大丈夫か?」




この声は……




「薫先輩ですか?」



「すごい荷物だな、手伝うぞ」




正直手伝ってくれた方が助かる。
でも、なんか気に食わないし手を借りたくない。




「いえ、1人で大丈夫です」




失礼しますと横をすり抜け、えっちら、おっちらと歩きだす。

よし、この階段を下りれば教室まですぐだ。

一歩を踏み出したら足元に違和感。

あっと思ったら視界が歪んだ。

あぁ、足を滑らせたのか。

そういや雨が降って滑りやすくなってたな。

階段から落ちるな。




「光希!!!!」




ピンチになると全てがスローモーションになるって本当なんだな、とか考えてるとき。

後ろから鋭い声が聞こえたと同時に腕を思いっきり引っ張られた。

荷物の落ちる音がとても遠くに聞こえる。




「怪我無いか!?」



「……え、はい」




薫先輩が助けてくれたらしい。

唖然としている僕に対して怪我をしていないかと確認すると安堵の表情を浮かべた。


その直後。




「こんのッ、バカッッッ!!!!!」



「……ッ!?」



「何変な意地を張ってんだよ。全然大丈夫じゃなーじゃんか!

俺の事どう思っているかなんて知らないけどな、大丈夫じゃないのに平気なふりすんな!

何かあった後じゃ遅いんだよ」




この人は本気で心配して、本気で怒ってくれている。




「そんなくだらない意地やプライドなんて捨てちまえ!」



「……薫先輩」



「教室に運ぶんだろ?手伝うか?」




雨雲に覆われていた空には雲の隙間から太陽の優しい光が差し込んで、
まるで僕達を包み込んでいる様で。

薫先輩はとても穏やかな表情をしていたんだ。




「はい」





次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ