短編
□幸せは続かない
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一歩踏み出す度にじゃり、と砂を踏む音が響く。
その音に振り返ったのは緑の装束を纏った少年達―――六年生と、その中心に立つ一人の少女。
少年達の目には少しばかり戸惑いが浮かび、少女の目には、歓喜が浮かんでいた。
天女様、何にそんな喜んでいるのかは知りませんが、今回天女様は関係はあっても一切用はありませんよ、と言いたい。
言ったら言ったで面倒な事になる事確実なので言わないが。
「…俺達に何か、用か」
「――ええ、まあ、ちょっと」
「天女様の件を含めてお伝えしたい事がありまして」
藍の装束を纏った―――名を竹谷八左衛門、久々知兵助、というのだが――二人の少年がそう答えると緑の衣の少年達の顔が歪んだ、と同時に僅かに殺気が六年生から漏れる。
その様子に竹谷は苦笑いである。一方の久々知は感情の伺えない無表情であった。
「いや、俺達危害を加える積もりは更々ないんで、あの、殺気出すの止めてもらえませんかね」
「……………」
訝しげな六年は、それでも殺気を収めた。まあ突き刺さるような視線はそのままなのだが。
「で、話とはなんだ?下らん内容であればただでは済まさんぞ?ん?私達は忙しい身なのでな」
「そう、だから手短に頼むよ。竹谷、久々知」
「忙しい、ね………ああ、そんな事はどうでもいいんです。先輩方は、気付いてますか?」
「はぁ?気付くって何が……」
眉を顰めた食満を見、竹谷は溜め息を吐きスッと指を一本突き付けた。
その場はしいん、と静まり返り、――先に久々知、そして竹谷が口を開く。
「――一人目は、鉢屋三郎。」
「“誰かさん”が学園の忍具管理を怠たり錆びてしまった武器を持って忍務へ。」
「――勿論武器は使い物にはならず、為す術もなく――――」
食満先輩が、息を呑んだ。
「二人目は、尾浜勘右衛門。“誰かさん達”の分の忍務の大半を引き受け、」
「まだ傷が完治していないにもかかわらず『おれがやらなきゃ誰がやるの!』と無理をし、」
「そして強力な毒を盛られなんとか学園まで戻るも、解毒剤を作る役割の人が腑抜けていた故、そのまま―――」
善法寺先輩が、顔を伏せる。
「三人目は不破雷蔵。」
「天女様を狙い、あわよくば学園長の命をみ奪おうとした輩達が学園に攻めてきた時」
「腑抜けた先輩方は気付かず天女様とお茶を啜る中、我々五年が相手をし、」
「多勢に無勢、五年三人に対し数十人の忍達。雷蔵はそのまま腹を抉られました。」
「――雷蔵の最期を見ていた先輩方なら覚えていらっしゃると思います。」
「「天女様を守る事に必死で、己の身を守る事を忘れていた事。雷蔵はそんな先輩方を身を挺して守り、―――そして死んだ事を。」」
沈黙が場を支配する。
……誰も話さない、声を出さない。否、話せない。
―――自分達はいままで一体、なにをしていた――?
そんな中沈黙を破ったのは、久々知だった。
「―――せんぱい、………足りないんです」
「足り、ない…?」
「…みんなが、いない。五年生にはあと、三人足りない…っ」
ほろ、ほろ、と流れる涙。
拭おうとしないそれを竹谷が拭ってやりながら、言った。
「機能しない委員会の補助の為に、三郎が指示を出してオレ達を動かしてた。本来六年がこなすような忍務の大半を、勘ちゃんは引き受けた。雷蔵は優しいから、自分を犠牲にしてでも先輩方を守りたかったんだ。」
「……も、つかれた、んです」
「せんぱい、もうオレ達は楽になりたいんです。嫌なんです。耐えれないんです。」
「後輩達を、学園を、お願いします。きっと、今ならまだ、間に合うから」
「お前たち……な、にを……しようと、」
二人は顔を見合わせ、にこり、笑んだ。
「「さようならせんぱい」」
「へいすけ、」
「はち、」
「「お疲れ様」」
お互いの首にあるその手には、クナイ。
六年生が気付いた時にはもう遅い。――だって鍛錬もしていないのですから、動きが二人よりも鈍いのは当然の事でしょう?
紅い華が二輪、咲いた。