長編

□鬼と狐の地獄模様
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『第二補佐官』





「鬼灯様はいったいどうやって私を見てたんですか?全然知らなかった...」


怪我の手当てをするため鬼灯の部屋へ来た凛は、鬼灯の手に包帯を巻きながら恐る恐る質問をした。


「時々、凛さんの親御さんの店に薬を買いに。帽子を深く被るだけで鬼だと気づかれないものです」

「お客さんとして堂々と...!?」


まさか接客してたとは___


「あとはこの鏡」


そう言うと、鬼灯は懐から小さな丸い鏡を取り出した。


「凛さんの母親から凛さんを守るようにと頂きました。何処に居ても思い浮かべた人物を映す鏡です」

「.......はい??!」


それはもう凛としては脳内に雷が落ちるくらいの衝撃だ。


何故そんなプライバシーの欠片もない物を見ず知らずの鬼に渡したの___!?
ていうか、どんな繋がりで鬼灯様に私を守るようお願いしたのお母さん!?

信じらんないよ____!!!


わなわなと拳を小さく震わせ、凛は顔も覚えていない母親を初めて恨めしく思った。


「自覚がないようですが、凛さんは妖力がかなり強い。なにしろ母親が天狐ですから、半分人間とはいえ受け継いだ力も大きいんです」

「てんこって何ですか?」

「千歳を超え、強力な神通力を持ち神獣となった妖狐のことです。千里眼を持つと言われていますね」

「そッ....それが私のお母さん?ちょっとスケール大きすぎやしませんか?」

「スケール大きすぎだろうが何だろうが、それが貴方の母親ですよ」


ここへ来てまだ少しなのに鬼灯から色々な話を聞いた、だが次々と明かされるのは信じられないようなことばかりだ。

ここが地獄だとか、自分が半妖だったことも実はずいぶん昔から鬼灯と関わりがあったことも、ついさっき聞いたばかりなのに加えて母親が天狐とか千里眼とかもう訳が分からない。


「その妖力故に凛さんは狙われやすいんです、貴方の妖力を体ごと喰らおうとする輩に」

「さらっと恐ろしいこと言わないでぇぇ!!」


ショックなことばかりなのに、留目を食らった気分だ。
凛は真っ青になり、涙目で狼狽えている。


「ところで凛さん...包帯、巻かないんですか?」


しかし投げ掛けられた質問にハッと我に返った。
鬼灯の視線の先の少しも手当てが進められていない手を見て、話に一生懸命になりすぎていたと気づかされた。


「はッ...ごめんなさい!」


凛は慌てて再び鬼灯の骨ばった手に包帯を巻いていく。


「まあそんなに心配しなくても大丈夫ですよ、これからは私がずっと側にいますから」

「___へ」


どういうことだ、ここへ来て思いもよらない言葉に時が止まった。
『ずっと側にいます』なんて異性に言われたのは初めてなのだから。


「明日からよろしくお願いしますね、第二補佐官」

「今何て言いましたか?」


だが一瞬にして、トキメキはぶっ飛んだ。


「簡単に言えば私の補佐、直属の部下です」

「___ 待って、それ本当ですか!?」

「嘘ついてどうするんですか」


私これから鬼灯様と一緒に働くの?!ていうか、第二補佐官なんてそんなすごい役職をさらっと決めていいんですか?!
  

「凛さん、また手が止まってます。というか動揺し過ぎでぐしゃぐしゃです」

「ええ!?ああ、いつの間にぐしゃぐしゃに...!」


本当に鬼灯様と一緒だと色々な意味で絶えず驚かされている気がする。

ぐしゃぐしゃになった包帯に悪戦苦闘していると、笑われた様な気がして顔を上げた。
だけどじっとこちらを見ているのは今までとさほど変わらない涼しい顔の鬼灯様で...


「....すぐ綺麗にしますから」


結果的に至近距離で見つめ合ってしまっただけで慌てて手元へ視線を戻した。

表情なんて全然変わらないのにどうしてだろ?
さっきから視線を逸らさない目が少しだけ楽しそうに感じたのは。


「見ていて飽きませんね」


思わず手が止まる。


「仕事は私が指導するので安心してください」

「...鬼灯様が?」

「はい、きっちりと仕込んであげますよ」


やっぱり、分かりにくいけどそうだ____


「逃げ出そうなんて考えないよう、しっかり覚悟しておいてください」

「覚悟ですか...」

「まぁ....逃がす気なんて更々ありませんけど」

「.....!!」


その時再び鬼灯と目が合って、凛は確信した。


やっぱり、この鬼 "楽しんでる"
ていうか今確実に闇鬼神様現れましたよね...?


表情は変わらずとも瞳には感情がしっかりと現れている。
そしてこの鬼が楽しそうな時は、その対象となる者にとっては警戒信号なんじゃないかと。


「やっ、やだなぁ鬼灯様、真顔で冗談言わないでくださいよぉ」

「は?冗談なんて言ってませんけど?」

「そ、そうですか...」


私の新しい生活は前途多難な予感でいっぱいです。
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