長編

□鬼神と神獣の争奪戦
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『その病に薬は無い』





どうかしてる

どんなに綺麗な女の子と遊んでも、浴びるほどお酒を飲んでも一時凌ぎ。
気づけば彼女のことを考えている。

女の子は大好きだけど別にフラれても構わないし、その時は他の子を誘えばいい。
遊ぶことが目的だから、特定の一人に拘る必要なんてなかったんだ。

それなのに今の僕ときたらどうだ?

寝ても覚めても、病気のように彼女のことが頭から離れない。


「あああぁぁぁ」

「どうしたんですかー白澤様?」


机に頬杖をついて、意味もなく声を出す白澤を不審に思ったのか桃太郎はダルそうに声を掛けた。


「僕変なんだよ」

「はあ、何が変なんですか?(変じゃない事の方が少ない気がする)」


そう心の中で本音をもらしながらも、一応ちゃんと聞いてやるのは流石面倒見の良い桃太郎である。


「なんて言うか...病気?」

「えっ病気!?何処か悪いんですか?!」


だが予想外の返答に少し焦ったようだ。


「あぁ、違う違う健康だよ。健康だけど...病気みたいなんだ...あぁ〜もう何なんだこれ〜」

「...はぁ??」


髪をぐしゃぐしゃに掻き乱して喚く白澤に、全く意味が分からないと桃太郎は困り顔になる。


「いっそ___思いきって閻魔殿に行ってみようかなぁ」

「ちょ、本当にどうしたんですか!?」


当たり前だが、閻魔殿には鬼灯がいる。

仕事でも鬼灯に会う時は嫌な顔をする白澤が、自ら閻魔殿に行こうなんて言い出したのだ。
本格的に頭がおかしくなったのかと心配になってきた。


「白澤様、真面目に大丈夫ですか?どうして用事も無いのに閻魔殿に行こうなんて...」

「だって彼処に行けば___」

「____彼処に行けば...?」


俯きぎみだった白澤の瞳に今まで見たこともないような色が映る。


「凛ちゃんに会えるじゃない?」

「凛...さん?」


その瞳を見れば大抵の人は勘づくだろう。


これはもしかして病気は病気でも、世に言う『恋の病』ってやつじゃないか?
だけど白澤様でも真剣に人を好きになったりするんだろうか...?


正直なところ、こんなスケコマシが真剣な恋なんて信じられなくて当然だ。
だがそんな楽しそうな話、深く聞かないなんて選択肢はあり得ない。

桃太郎は好奇心に早る気持ちを抑え、白澤へ質問してみることにした。


「へぇ...つまり白澤様、それって凛さんのことが好きってことですか?」

「ああ、もちろん好きだよ。可愛いし和むし、あと少し危なっかしい所もいいよね」


凛の話題になった途端、白澤は一気に頬を弛ませ声を弾ませる。


「まぁ確かに癒し系ですよね...じゃあ、その好きは他の女性への好きとは違うんですか? 例えばそうだな....もし凛さんに彼氏が居たらショックですか?」

「え"ッ...それかなりショックなんだけど」


今度は一瞬にして二日酔いの時の様なテンションの下がり具合を見せる。
それを見る限り嘘はついていない様だ。


「...もしかして、気付いたら凛さんのことばかり考えちゃったりします?」

「よく分かったね?今まさにそうだけど...」

「じゃ、じゃあ! 凛さんが自分以外の男性と仲良くしてるとイラッとします?」

「そりゃするよ!! 鬼灯とか鬼灯とか鬼灯とかッ!! いつも一緒に行動しちゃって、いかにも自分のものですーみたいな顔でさ〜!」


恋敵になるのもやはり、いつもと変わらず鬼灯なのだと思うと二人の因縁に思わず笑いそうになった。
だがそれ以上に今は白澤の本物の恋を初めて見て驚きの方が勝っている。


「おおぉ〜! 俺、今初めて"女性なら誰でもいい"じゃない白澤様を見ました!! 何か本当に凛さんのこと好きっぽいですね!」


遊び人代表の白澤の異変に感動すら覚え、ハイテンションになった桃太郎は思わず拍手を送る。

だがその失礼なリアクションにツッコミもせず何故か白澤は青白い顔になっていた。


「あれ?白澤様なんか顔青くないですか?」

「....もしかして__」


『いかにも自分のものですーみたいな顔でさ〜』

という自分の言葉に白澤はハッとしたのだ。

凛を迎えに来た鬼灯の異様なまでの怒りよう、もしかして既に二人は付き合っているのではないか?

浮かび上がった疑惑はみるみる膨らんで白澤の心を曇らせていく。


「っ〜〜だあああぁぁぁぁ!!!」

「うわぁっ!!何だ、どうしたんですか!?壊れましたか!?」

「くっそーッ!あのムッツリ猛毒野郎め!!」

「...猛毒野郎って鬼灯様のことですよね?」

「そうだよ決まってるだろ!!どうしてすぐ気づかなかったんだッ!!ぐああぁぁ僕のこういう勘って当たるんだよぉぉ〜!」


白澤は先程の比にならないほどガシガシと頭を掻きむしり奇声をあげている。

その様子は正に絵に描いたような

『恋は盲目』恋におちると理性や常識を失ってしまう

正に今の白澤そのものだ。


黙り込んだかと思えば突然奇声をあげたり、にやけたと思ったら落ち込んで苛立って、見ているこちらが振り回されるほど忙しない。

そして散々奇声をあげて暴れた後は、力尽きたように体育座りで部屋の隅に縮こまっている。
仕方ないので、見かねた桃太郎は縮こまる白澤に声をかけてやった。


「あ〜もう、こんなに頭グシャグシャにして...勘って何なんですか?」

「うぅ桃太郎くん...凛ちゃん、鬼灯と付き合ってるのかも」


桃太郎は驚いた。

普段なら自信満々に女性を口説きおとす白澤がまだ憶測でしかない事にこんなに振り回されて落ち込んでいるのだ。


「(何て言うか、白澤様も可愛い所あるんだなぁ...)」


落ち込んでいる人を笑うのは失礼だと思いながら、つい小さく微笑んだ桃太郎は、初めて見る白澤の真剣な恋を応援しようと心の中で密かに思った。


「大丈夫ですよ白澤様、それまだ憶測でしかないんでしょう?気持ちを伝える前から落ち込むなんて白澤様らしくないじゃないですか」


肩をポンポンと叩き、小さくなった白澤を勇気づける。


「うん、そうだねぇ...確かに僕らしくない」

「それにほら! 凛さんって漢方薬とか好きなんですよね?それを切っ掛けに何か関われるんじゃないですか?」

「____漢方薬を切っ掛けに...?ああああッ!!」


桃太郎の言葉を聞いた途端、閃いた白澤は勢いよく立ち上がり叫んだ。


「そうだよ!この前の試作の薬を製品化して凛ちゃんにプレゼントすれば___きっと喜んでくれる!会いに行く口実が出来る!ありがとう桃太郎くん!!よーし!!」


さっきまでの落ち込みようが嘘のように目を輝かせた白澤は、大急ぎで鍋や薬草の準備を始める。

気持ち一つでここまで変わるものなのだと一気に元気になった白澤を見ながら思う。
それと同時に恋煩いとはどんな病気よりも厄介かもしれないと改めて思った。


「こればかりは薬なんて効かないしな...でも、何か少し羨ましいな」


白澤には聞こえないよう、そう小さな声で桃太郎は呟いたのだった。
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