短編

□般若の面
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夜の闇をぼんやり照らすお化け提灯の明かりと、賑やかな祭り囃子

道の両脇には地獄の夏祭りならではの出店が軒を連ねる

祭り客で賑わう道を強い風が吹き抜け、風車屋の店一面に飾られた鮮やかな風車がカラカラと音をたてて回た。




___ねぇ、貴方はもしかして...



吹き抜ける風の様に人の波を避けて

私の手を握り走る人物の顔には

般若の面


一斉に回る風車の花も視界の端を流れていくだけで

目の前で風になびく綺麗な黒髪に釘ずけになった



私の想い人ではありませんか?____





走って走って

ようやく止まったのは、出店が途切れ提灯の薄明かりが僅かにだけ届く場所

般若の面の人は近くの石造りの階段にハンカチを広げた。



「突然走らせてしまってすみません、ここに座って休んでください。」


「っはぁ...はぁ...はい.....」



息の上がっている私を気遣っての配慮だが、それより般若の面が気になって荒い息のまま彼を見上げた。



「貴方は...」


「誰だか分からなくて怪しんでますか?」


「....怪しいと言えば怪しいですけど、何となく...誰だか分かる気がして..怖くないです」


「ほう?それは嬉しいですね、それなら話が早い。是非私が誰か当ててください、狐と勝負をしているのです」


「勝負を...?」


「はい」



般若の面の人は私の横に腰掛け、こちらを向いた。


まだ私が思っている人物だという確証もないし、ただ隣に座っただけだと言うのに...

薄明かりの中に2人きりという雰囲気のせいもあるのだろうか?

私の心臓はあっという間に早鐘の様に脈打った。



「狐さんと何の勝負をされてるんですか?般若さん...?」



そんな自分を誤魔化すように、般若さんに問いかけた。


見上げた般若の面を見れば見るほど、彼が誰かなのか、やっぱり最初の勘は間違ってないと思う。


その落ち着いた低い声だって、いつもの香の香りだって

いつもと違う浴衣姿だったとしても....貴方を慕う私が、貴方との身長差も覚えてないと思いますか?



「このお面をしていても誰なのか先に当ててもらえ方が、今夜凛さんとお祭りを楽しめる。という勝負です」


「へっ...?」



まるで私の心を映したように、ふわりと吹く風に木の葉がさわさわ揺れる。

風に乗って香る貴方の香りに、余計胸に甘さが染みわたった。



「顔、真っ赤ですよ?この薄明かりでも分かります」


「えっ!あっ...それはっ.....」


「...こんな勝負しなくても、私の勝ちは確定のようですね」



心なしか楽しそうな般若さんはしどろもどろの私の手をとり、お面に添えさせた。



「ほら、早く言い当てて...凛さんがこのお面を取ってください」



お面を取れば、そこには慕う人の顔がある

遮るものなんて無しに貴方は私を見つめるの?

考えただけで高鳴る胸にいい加減頭がくらくらするけど、それでも早く言い当てて...

貴方を直接見たい



般若さんの言葉に促されるまま、私は彼の名を呟く。



「貴方は...鬼灯様です」



ゆっくりとお面をずらす



「ご名答」



そこにはいつもの涼しげな鬼灯様の顔

お面をずらした瞬間、当たり前だかしっかり目が合ってしまって

恥ずかしさに思わず目を反らした。



「こっちを見てください」



それなのに、鬼灯様は私の顎に手を添え鬼灯様の方を向かせると

その目で一瞬のうちに私を射抜き

そのまま口づけた



「んっ..._____」



思考が停止する

時が止まる



キスが終わってから呟いた鬼灯様の声が、ぼーっとする私の頭に響いた



「凛さんがあんまり可愛いから、我慢できませんでした」



それは反則じゃないですか?



「 私は...鬼灯様のせいで熱が出そうです....」



熱に浮かされたうわ言のように言葉は漏れて



「煽らないでください...生殺しもいいとこです 」



もう一度鬼灯は唇を落とした



思考は溶け

恋に落ちる音が響く





ねぇ...鬼灯様?


お面をしてたって分からない筈ないです

私は貴方をこんなに好きなんですよ?
 

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