短編

□揃いの雪
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「あのっ、ちょっと...春一くん?流石におねーさんも、突然のハグには驚いちゃいますけど...」


「....」


「ぁ、あれ?春一く〜ん聞こえてますかぁ?」



遥々八寒地獄から何の用かは不明だが、頻繁に現れる雪鬼の彼。
大きな垂れ目と左目尻の雪の結晶のマークが可愛らしい。


ボケてるんだか飄々としてるんだか謎な空気で周りを振り回して、かと思えばいつの間にか人を惹き付けて

その少しぶっ飛んだ行動につい周りは世話を焼いてしまう。


"無意識愛されキャラ"とでも言ったらいいだろうか?


かくゆう私もそんな彼のペースに巻き込まれて、あっという間に親しく話す関係になっていた。


きっと歳の差なんてそんなに無いのに気づけば弟扱いする程世話を焼いて、今となっては構い構われ冗談だって交わす仲。
相手が誰かは伏せてたけど、恋愛相談だって受けたこともある。


だけど今日の春一くんは様子がおかしい、会うなり突然抱きついてくるなんて初めてのことだ。


何か話し出す訳でもなく、こんなにずっとただ抱き締められては流石に気まずい....
ていうか恥ずかしい、どうしたらいいのこの状況?

新手の悪戯?

スキンシップ激しすぎやしませんか?



「せめて返事くらいしてよ、春一く〜ん.....」



呼び掛けてもやっぱり反応は無い。

次第にもやもやと、心は気づかないフリをしていた部分を隠しきれなくなってしまう。


弟扱いすることで一線を引いていたのに、抱き締められれば嫌でも分かる。


見た目によらず、しっかり私を包み込める骨ばった腕

逃げようにも抵抗した所で敵わない力の差

煩く騒ぐ自分の鼓動



彼は弟なんかじゃない



ひっそりと隠していた気持ちは胸の奥で熱を持ち

その熱に自覚させられる



あぁ、やっぱり...私は春一くんを好きになってたんだ_____



「夢を見たんだよう」



漸く春一がぽつりと呟いた。



「へ....?な、何?怖い夢とか?」


「そうそう」


「そうなんだ?どんな夢...?」



抱き締められているせいで自然に耳元で話す春一の声は、いつもより少し低く聞こえる。


平常を装うのがやっとなんですが...



「凛がさぁ...」


「私?」


「鬼灯様と付き合ってるって夢だよう」


「....」



"私と鬼灯様が付き合っている"の図が瞬時に頭に浮かび、問答無用で脳が数秒フリーズした。



「ないないないないないッ!!!」



何で私があの鬼上司とプライベートでまでお付き合いしなきゃなんないんですかっ!?
脳味噌汁は飲んでませんけど!?



「それすっっごく怖いから!!」


「だろう?」



フリーズの後一気に青ざめてしまったが、脳は混乱しながらもぽつりと疑問を浮かばせる。



「あれ....けどさぁ?どうしてそれが春一くんにとって怖い夢なの?」


「...マジか〜....気づけよ〜う」


「は?何に??」


「鈍いとは思ってたけど、筋金入りときた....仕方ねーなぁ」



ますますよく分からなくなっている凛を漸く解放すると、春一はポケットからマジックペンを取りだした。

そして蓋を取り凛へ向ける。



「はひっ!?ちょ、待った!何堂々と顔に落書きしようとしてんの!罰ゲームか!」


「あ〜、いいから動くなよう!」



たれ目の可愛らしい目が少し真剣になって、キスするんじゃないかと思うほど近くで見つめられた。

挙げ句片手で頬を固定されてて顔を反らすことも出来ない。


あぁもう、堂々と悪戯されそうなのに...何で突き放せないのよぉ....



「うぐぅ〜訳分かんない、私何かしたぁ!?これからまだ仕事だってあるのに...」


「落書きじゃねぇよう」



キュッキュっと春一は右目尻の下へ何か描いていく。



「よ〜し、これでバッチリ左右対称〜」



不満気な凛とは反対に、春一は満足気だ。



「何がバッチリよぉ...左右対称??」



小さなため息を吐きながらポケットからゴソゴソと手鏡を取り出し自分を映すと、次の瞬間ドキリと心臓が大きく跳ねた。



右目尻の下には春一と揃いの雪の結晶_____



「これっ...春一くんと一緒....」


「そう、これで誰が見ても凛は俺のだよう?」



そう言った春一の目はしてやったりと満足気に光り、そして私の雪のマークにそっと指で触れた。



「夢みたいに捕られちまう前に...ちゃんと伝えとこーと思ったんだよう」



私の目に映る春一くんは



「なぁ、意味分かる?」



まるで別人みたいに大人っぽい表情で



「凛が好きだよう」



私の深くに言霊を落とす



ぁ....マズい....

これは後戻り出来ない

余計好きになっちゃった...



「ぷっ...分かりやす〜顔が林檎みたいだよう?」


「______っ!!?」



言葉の出ない凛に春一はニヤリと笑い追い討ちをかける。



「鬼灯様にコレ見せに行こうか?両想いだったから、鬼灯様の部下をお嫁に貰いましたようって」


「なっ...?!ばかぁ!!」



真っ赤の顔でポカポカと春一を殴る凛の頬には、しっかりと描かれた揃いの雪


そのマークのせいで会う鬼会う鬼に質問攻めにされ、閻魔殿では2人の関係がちょっとした噂話になった。


そして噂になる前にいち早くマークの意味に気づいた鬼灯の機嫌が最悪になったのはまた別のお話_________
 

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