短編
□貴方の色
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『貴方の色』
目の前で舞う
貴方の色
掴もうと手を伸ばしても、ハラハラと逃げてく葉は
本当に貴方に良く似てる
「そぅ...ですか。仕事なら仕方ないですね!気にしないで、私は大丈夫ですから!」
「すみません、今度必ず埋め合わせをします。」
多忙な鬼灯様からこういう台詞を聞くのは初めてじゃない。
"もう馴れてるから大丈夫"
いつものように自分に言い聞かせて、いかにも平気な声で笑ってみせた。
「...どうせなら、出掛けようかな」
このままじゃお洒落も無駄になっちゃうしね?
ひんやりとした夕暮れの空気の中、指先や足先からどんどん熱が奪われていく。
でも今はその寒ささえどうでもよく思える、空洞の出来てしまった胸を埋めてくれるものが欲しい。
もやもやと行く宛も考えないで歩いていたら、いつの間にか私はそこに来ていた。
「ここ来ても意味ないじゃん...ああばかぁぁぁ」
今私が立っているのは、今日鬼灯様と待ち合わせするはずだった場所。
ドタキャンされたデートの待ち合わせ場所に1人なんて悲しすぎる絵面です。
弱ったの自分にわざわざ留目をさしてしまった....
色みの少ない地獄には珍しく目に焼き付くような紅を散らすその紅葉の木は、夕陽に照らされてとても艶やかだ。
地獄では馴染みの色、炎や血の池の色、見慣れているはずなのに
この紅葉から連想するのはそのどれでもない。
「そっくりだね」
凛とした紅
私が触れることの出来ない紅
「....こんなに近くにいるのに」
その距離はどうしようもなく遠い気がして。
本当は触れることの出来ない幻に焦がれているのかもしれない
そう思った瞬間、胸が締め付けられて痛みに似た熱が込み上げてきた。
「何してんだろ...私ってホントばかだなぁ....」
いつだって貴方は私の心の中にいる
いつだって私に力をくれる
だけど貴方は時々私を弱くする
会えないのなんて慣れっこじゃない?
今までだって耐えてこれたじゃない?
だから大丈夫だよね?
「大丈夫、だよ...」
喉の奥から無理矢理絞り出した嘘に心は耐えられず悲鳴をあげる。
大丈夫じゃないよ
貴方に触れたいよ
本当はもうずいぶん前から気づいてる、貴方を想えば想う程私は1人になる。
人を愛することは時にこんなにも辛いんだと_____
「大丈夫なわけ____ないじゃない」
いいよね?誰も聞いてないもの
瞳に映る紅葉がゆらゆらと滲みだしたとき
「凛」
一番聞きたかった声が鼓膜を揺らした______
「凛...ここに居ると思いました」
「_______ッ....」
走ってきたのか少し息切れた声、聞きたかった筈の声なのに実際にすぐ後ろで聞こえたら息が止まるくらいに驚いた。
そして一瞬にして貴方は私を掻き乱していくんだ。
「凛は嘘が下手ですからね、空元気くらいすぐ分かりますよ。」
「____どうして...?仕事は?」
私の意思を無視して次々と溢れる涙、こんな顔じゃあ振り返ることも出来ない。
「凛のあんな声聞いて仕事なんてしてられないんですよ。仕方ないので大王に押し付けてやりました。」
「なッそんな...ダメ、ですよ...鬼灯様いないと閻魔殿はまわらなっ「それより、こっちを向いたらどうです?」
私が言い終えるより先にそう言った鬼灯様はクルリと私の体を反転させ、正面を向かせる。
「_____ッヤ!!今見ないで下さい!」
「何故ですか?」
そして必死で顔を隠す私を意図も簡単に腕のなかに閉じ込めた。
「いい加減、そうやって私に隠れて泣くのは止めなさい。」
「だって...こんな顔、見せられない」
ぐちゃぐちゃになった胸が苦しい
だけど、私の欲しかった紅がこんなに近くにある
「まったく、涙と鼻水で酷いですね」
「...だから!見られたくないんですっ!!」
「今更です」
意地悪な言葉とは裏腹に抱き締める貴方の体温が優しすぎて、余計涙が溢れた
「凛、私は知ってますよ。」
「....なに、を?」
「貴方が泣き顔を見られるのを嫌うのは、気丈に振る舞っている姿が嘘だとバレてしまうからです。」
その言葉1つ1つに、力の入った体も縮こまった心もゆるゆると溶かされていく
「いいですか?よく聞きなさい」
深い色の瞳に真っ直ぐ映るのは
「私の前では強がるな、1人で隠れて泣くな。隠しても無駄です。」
______私だけ
「どんな凛も私のものですから」
そう告げてゆっくりと口づける唇が優しくて
愛しくて
隠す間もなく包まれた
「んッ_____」
気づけば胸の苦しさがさっきまでとは違っていた。
この苦しさは幸せな苦しさ。
「...分かりましたか?」
愛する幸せも辛さも、教えてくれたのは全部貴方だから
痛みさえ貴方を愛する証なんだ
ならば私は_____
いとおしさも痛みも、どちらも平等に愛そう
「_____はいっ」
貴方がどんな私も包んでくれるように
「よろしい、いい返事ですね。」
僅に微笑んで私の頭を撫でた貴方が瞳に焼き付いた。
強い風に紅葉がざわめいて
私の頬が紅く染まる
「凛、紅葉みたいですね」
それはきっと
紅葉の紅が映ったせいですよ_____
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