蒼穹
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そう言って僕は逃げるように一騎の横を通り過ぎようとした瞬間、僕はいきなり腕を掴まれ、停止させられた。
「総士、顔見せて」
静かに、だけど強い口調で言われる。
「何で」
「いいから」
「やめろ」
「総士!!」
上げられるわけない。
涙を流したばかりの顔、見せられるわけがない。
それに
一騎に弱さを見せるようで……嫌だった。
どうこの腕を解こうか考えていると、痺れを切らした一騎は僕の腕を掴んでいた手に力を込め、僕の顎を掴み、そして無理矢理顔を上げさせた。
そして、目が合う……−。
「総士……?」
未だに微かに濡れていた僕の瞳に驚いたのか、一騎の目の奥が揺れるのがわかってしまった。
「っ………」
僕は一瞬だけ緩んだ一騎の腕の拘束を振り解くと、背を向けてドアに走り寄った。
「あ…ちょ、ちょっと待てよ…総士!?」
(見られた…)
僕は一騎の制止の声を無視した。
(あんなものを…寄りにもよって……一騎に!)
そして、僕は何かを考える前に地下を飛び出した。
(もう人前では泣かないって…決めたのに…!!)
地上は雨が降っていた。
それに気にすることもなく。
僕が目指したのは、いつもの場所だった。
「はぁ…僕は一体何してるんだろうな……」
僕は苦々しく呟くと、短時間でずぶ濡れた髪をかきあげた。
目の前にあるのは真っ黒な「羽佐間」と書かれたお墓。
島の住人の怒りがどんどんと薄くなってきているのか、ここ最近は酷く荒らされていることはなかった。
それでも
「羽佐間翔子」への不釣合いな噂が地下深く流れているのも、また事実。
決してそんなことないのに…。
何も真実を知らないくせに…。
でもどうして……
「でもどうして…誰も僕を…責めないのかな」
ポツリと呟く。
羽佐間の時も、甲洋の時だって…
甲洋に会って、いつも当たり前のようにココに来る。
ココにくれば自分を戒められる。
ココにくれば自分を過去に縛り付けた楽園がココにはないことが認識できる。
ココにくれば、自分の不甲斐なさと共に、司令官としての自分をやらなければいけないと感じる。
突然の義務と大きな責任を抱え、逃げられないということに、僕はただ、また制服で身を固め、本心を誰にも打ち明けられない日々を生きるだと思い、俯いた。
「ったく…こんな自分に嫌気がさす。結局、何も救えてないのは僕だけじゃないか……」
過去に『思い描いた楽園』ほど辛く痛いことはない。
僕らが小さい頃に『思い描いたもの』はこんなものでもない。
『簡単に思い描ける』、真実を何も知らなかった時の無邪気な皆の笑顔に、僕は涙を流したくなる。
実際今は泣いている。
ただ、今はそれを隠しているだけ。
きっと少しだけ赤く充血したであろう目は痛いし、鼻もツーンと鼻腔を刺激しているのが証拠。
僕は俯いたまま、しゃがみ込んで目を伏せる。
そこで、初めて意外と雨が強いことに気付く。
大粒の雨はとうの昔に服を重たくしているが、今は何も感じない。
結局は服の重さより、心の中に根づいた闇の方が重いんだ、絶対。
自分にあたる雨が心地よい。
自分の足元に広がる水溜りに出来た波紋が綺麗だと、不釣合いなことを考える。
そして、そっと瞳を閉じる…。