蒼穹

□僕等の恋愛的日常
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ピー!
高い笛の音が体育館に響く。

今は体育の授業中。
今日は担当教師の好意によるドッジボールだ。

男子を半分にわけ、試合が始まるわけだが…。
そこには珍しく総士もいる。
視力のハンデが大きいためあまりこういう競技に参加しない総士だが、チームは彼を歓迎した。
いつも2つにチームを分けると、人数の関係でひとり余ってしまう。
いつもその枠は総士で、今回は総士も参加するということで、こちらのチームはひとり多いことになるのだ。


「さぁ、いくぞー!」


敵チームの大将と思われる剣司は、手にしたボールを高々と掲げ叫ぶ。
どやぁぁぁぁー!と雄叫びと共に投げられるボール。

威力のないボールをかわし、それでもボールは敵側の外野に渡る。
内野と外野にボールが周り、ぶつかり、ボールの保持チームもコロコロ変わる白熱戦。


「うーちとーったりーーー!!」


外野からボールを貰った剣司は、身体を捻りボールを勢い良く投げる。
素で、実際にそのボールに強い威力はなく、それに当たった者は今まで誰もいなかった…のだが。

小さな放物線を描くボールは、ポンッと総士に当たった。
偶然にも総士の死角からの、狙ったつもりも全くないボール。

一瞬、体育館の空気が変わった気がした。


「総士、大丈夫か!?」

「あぁ、ごめん、心配かけたか」

「そんなことない。総士、怪我してない?」

「大丈夫だよ。相変わらずだな一騎は」


怪我なんてするわけがない。
誰もがそう思ったが、誰もがその事実を口にすることは出来なかった。
その間も、2人の空気はどこか甘く…。

一騎は総士を優しく外野へ進めると、静かにコートへと戻った。
友人が確保してくれていたボールを片手で受け取ると、未だ固まったままの剣司に目をやる。


「剣司」


静かな声が、余計に恐怖を増す。
剣司の目が恐る恐る一騎に向けられる。

ニコリ、と笑う一騎。
ヒクリ、と強張る剣司。

一騎がゆっくりとしたモーションでボールを構え。
ようやく身体を動かした剣司に鋭い眼光を飛ばすと。

次の瞬間。
剣司の意識は白い闇へ沈んだ。
自分の顔にボールがメリッ、とめり込む音を聞きながら。






昼休み。


「ねぇ衛、総士知らない?」


保健室から出てきた衛---剣司の見舞いだろう---に、咲良は訊いた。


「さぁ、僕は見てないよ。どうしたの?」

「このプリント総士に渡してくれって頼まれて」

「じゃあ探すの手伝うよ」


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