蒼穹

□僕等の恋愛的日常
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2人は校舎を探すが、見つからない。
急ぎのものではない為放送をかけるまでもい。
昼休みが終わったあとでも構わないと言われたが、咲良はそれが性格上落ち着かない。
衛もそれを知っているから、その提案は最初からする気はなかった。


「外行ってみる?裏庭とか」

「んー、そうね。行ってみよっか」


2人は靴を履き替え、裏庭へ向かった。
人の気配はない。
しかし新緑の青葉の香りはなかなかのものだ。


「いないわね」

「うん…あ、咲良見て!あの木の下」

「下?」


言われ、目を凝らす。
大きな木の下にいるのは、見慣れた色素の薄い髪。
総士だ。
咲良は木の下に駆け寄ろうと足を踏み出し…だがその足は総士の目の前までは行かなかった。


「咲良?」


衛が不思議そうに近づく、が、すぐに理解する。


「流石だよねぇーあの2人」


何故か楽しそうに衛は言う。

木の下にいるのは総士と、彼の膝を枕にして横になる一騎の姿だった。
総士の髪を、一騎は下から腕を伸ばし触れている。
総士もまた一騎の髪を優しく撫でているようだ。

甘い。
甘すぎて砂糖を吐き出せそうな雰囲気に、咲良は微かに頬を赤める。
咲良と衛が来た道とは正反対から来た男女カップルも、2人を見かけると顔を赤くし走り去っていく。
見慣れた咲良でさえそうだ、仕方ない。


「どこでもあんな甘い空気かもし出すんだもん、参っちゃうよねー」

「参るってもんじゃないわよ…」


咲良は項垂れ、渡すべきものを渡さず---正確には渡すことが不可能---あの世界に足を踏み入れられないのだと悟った---踵を返した。
その肩を、衛が慰めるようにポンポンと軽く叩いた。




放課後。

天気予報はこんなに簡単に人を裏切るものだろうか。
生徒玄関から覗く曇り空からは雨粒が降り注いでいる。

大雨というわけではないが、小雨というほど軽いものではない。
男子なら雨に濡れても、走って帰っても平気だが、女子はそういうわけにはいかない。
全く気にしない子もいれば、気になる子も多い。

真矢は気にする女の子のひとりだった。
この程度なら走ってもいいし、濡れても構わない気がするが、実際にそれを実行する気にはなれない。
親が来てくれる友人もいたが、生憎、自分の母は医者ゆえに忙しい、無理な話だ。
姉も学校の保健室にいるが仕事はまだ終わらないだろうし、傘を持っているとは考えにくかった。


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