蒼穹
□夏祭りの日は
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夏祭り
今日だけはすべてを忘れ、童心に戻れる日……。
夏祭りの日は
騒がしい音が少し遠くから聞こえてくるのを耳にしながら、一騎は珍しく、総士を待っていた。
夏祭りの会場から離れた大きな木の下。
濃紺の浴衣に身を包んだ一騎は、チラッと時計を見やった。
「まだかな〜総士……」
すると
「き…一騎…一騎ってば!」
なにやら小さく自分の名を囁く声。
振り向くと、そこには木の陰から顔だけを出し、コチラを見てくる総士の姿。
「あ、総士。来てたなら教えてくれよ」
「あ…あぁ、ゴメン。…あ、あのさ一騎……」
「ん?」
「今日、一騎、絶対浴衣で来てねって言ったよね?」
「うん」
そりゃ、かわいい総士の姿を見られるチャンスなんだし…。
とはあえて口にしない。
したら多分殴られる。
「そ、それで。探してはみたんだけど、その…見つからなくて」
「本当?」
「あぁ。でも一騎さ、浴衣でお祭り行くの、とても楽しみにしてたから」
「?」
「それで、仕方なく、ね……あの、ね?」
頬を赤らめて上目で見てくる総士の姿に欲情したのもあるが、珍しくはっきりモノを言わない総士に業をにやした一騎は、スッと腕を伸ばし、総士の手を掴んで木の陰から引っ張り出し手…そして、
固まった。
「……………総士?」
「へ、変なら変って言え。はっきりとさ!」
一騎の目に入ったのは確かに総士だ。
しかし、着ている浴衣は明らかに女物で、しかも桃色。
誰にされたかはわからないが、(大体想像はつきそうだが)帯の結び方がとても可愛く施されていた。
「…一騎?何か言ってくれないと…ヤなんだけど」
何も言わなくなった一騎に不安になったのか、総士は一騎を下から覗き込んだ。
「…いいよ」
「えっ…!?」
「かわいいよ総士!!」
がしっと総士の肩を掴んで熱く言う。
「とーーーっても良く似合ってる。(うなじが見られないのが少々残念だが)だから安心しろって…な?」
その言葉に良くしたのか、総士はニッコリとはにかむように微笑んだ。
「じゃ、手…繋がない?」
「え?でも…」
「大丈夫だって。今日の総士の姿は女の子だもん。おかしくなんかないよ」
「………」
「今日は、俺がエスコートするから。…今日だけ…ね?ねっ?」
「…じゃあ今日だけね、一騎」
「うん。じゃあ参りましょう、お姫様」
一騎は手を差し出し。総士の手を握った。
そして2人は、夜のお祭りへと足を踏み入れた。